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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

歌野晶午『長い家の殺人』の感想

現代日本のミステリである。布団の中で二晩読んで読了した。 「現代」といっても発表は1988年なので、読んだ当時としても一昔前の作品である。現在(2016年)からすると四半世紀以上前の作品であることに驚くが、それはともかく、まずは概要を示す。

過ぎた年(2016年)におくる50冊

いつもは読んだ本の感想を書いているのだが、広い意味で「その年」を概観する本のリストを作りたいと思い立った。 仕方がないので、手が空いた年度末のこのタイミングに作成する。2016年の1年間、世の中の動向などから興味が広がり読もうと考えた本や、人に…

梶本修身『すべての疲労は脳が原因』の感想

現在、年末の進行による深い疲労状態で、これを書いている。疲労しているのは今に始まったことではなく慢性的なものでもあるので、どうにかできるかと思い手に取った1冊である。 本書の内容は、テレビ等でもよく扱われるようだが、私は最近ほとんど地上波の…

おーなり由子『てのひら童話1』の感想

おーなり由子は、少女漫画雑誌『りぼん』に連載をしていた漫画家である。さくらももこ『ちびまる子ちゃん』の、割と初期の頃の巻に寄稿していたと思うので、連載時期としてはそれくらいの頃だったのだろうと思う。本書は、そんな作者によるオムニバス形式の…

村上春樹 文/稲越功一 写真『使いみちのない風景』の感想

写真つきの随筆である。というよりは、稲越氏の写真集に少しずつ挿入されている随筆、と表現すべきだろうか。1ページ当たり長くても8行程度の文章が、概ね2ページにつき1ページの割合で挟まれている。そうした形式による100ページほどの表題作と、私が読んだ…

矢口史靖『ウォーターボーイズ』の感想

その頃、映画『スウィングガールズ』を観たので、矢口監督作品の小説版を読む気になった。 ネットの評価でも散見したが、確かに「(『スウィングガールズ』と)だいたい同じ」な感じは受けた。停滞した高校生たちと、何かちょっと珍しい活動と、いい加減な指…

万城目学『鹿男あをによし』の感想

既に『鴨川ホルモー』、『プリンセス・トヨトミ』は読んだのだが(いずれ過去の読書として感想を書く)、作者の第2作に当たる本書は手つかずだったので読む。作中では神無月すなわち10月が重要な時期として扱われているのだが、その時期に読んで感想を書ける…

萱野葵『段ボールハウスガール』の感想

200万円を盗まれた女の無軌道な路上生活を描いた表題作と、仕事を辞めた主人公とアル中だった弟の暮らしを描いた「ダイナマイト・ビンボー」を収めている。

霧舎巧『ドッペルゲンガー宮《あかずの扉》研究会流氷館へ』の感想

もっと新本格ミステリを読もうと思い、手に取る。作者は本作によって1999年にデビューした「20世紀最後の新本格派新人」とのことである。当時、日曜に読み出し、その日のうちに残り100ページまで読み進め、翌月曜の深夜に読了した。とある大学の《あかずの扉…

メーテルリンク原作/中村麻美 翻案・画『チルチルの青春』の感想

私は『うしおととら』『からくりサーカス』などを描いた藤田和日郎の漫画を、相当に愛好している。現在は『双亡亭壊すべし』を連載している藤田氏だが、その1つ前の連載、2008年から2014年にかけて描かれた『月光条例』は、全ての“物語”を巻き込んだ物語だっ…

森鴎外『阿部一族・舞姫』の感想

鴎外の処女作、擬古文の「舞姫」を巻頭に収録した短編集である。他に同じく擬古文体の「うたかたの記」、以下は言文一致体の「鶏」「かのように」「阿部一族」「堺事件」「余興」「じいさんばあさん」「寒山拾得」とその付記「附寒山拾得縁起」を収める。 ま…

新海誠『小説 君の名は。』の感想

映画の公開に先立ち、読んでみることにした。新海誠の映画は恐らく全て観ているが、特にファンというわけでもない、と自分では思っている(けれど公開初日に見に行こうとしているのは、やはりファンを自称すべきだろうか)。 ともあれ、以前から『秒速5セン…

ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』の感想

1つ前の『終業式』と同じように、Twitter上で言及されているのを複数回見て、たまには最新刊を読もうと思い手に取った。活版印刷を営む若い女性を中心に描かれた連作短編集である。

姫野カオルコ『終業式』の感想

Twitterで幾人かが読んでいるのを見て、興味を惹かれて読む。ちょうど『錦繍』について書いて、現代で書簡体小説は可能か、ということを考えていたこともあって気になったのである。 書簡体小説がらみの私の思惑がどうなったかは置いておいて、まずはあらす…

新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー2』の感想

間が空いたが2巻についても述べよう。1巻については以下のリンクから。 まずはあらすじを述べる。 花火大会3日前の放火は、大事には至らず済んだ。しかし、「ぼく」――卓人(たくと)達がアジトにしている喫茶店〈夏への扉〉には、またも放火犯によると思われ…

新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー1』の感想

刊行から数年後に入手し、5年以上積読にしていたものを、不意に読みたくなって引っ張り出してくる。なぜ今そんな気になったかというと、新海誠氏の新作映画のせいかもしれない。それか、Twitterを始めてフォローしたアカウントの幾つかがSF好きだったからか…

水村美苗『続明暗』の感想

(2004年11月読了) 以前、ある程度まとめて漱石を読み、そのまま漱石のパロディやオマージュも探したりしたのだが、それらの発見順では4つ目になるだろうか。絶筆『明暗』の続き、という設定で書かれた小説である。『明暗』を読んだのが前年のことなので、…

宮本輝『錦繍』の感想

美しくも哀しい小説だった。お互いにかけがえのないだろう相手に、自分の道を行くことを伝えあって歩み去っていく結末には、ただのロマンスでは済まされない力強さもある。

有栖川有栖『双頭の悪魔』の感想

「学生アリス」シリーズの第3作にして(2004年の時点では)最新作である。当時、いささかショックなことがあったために出不精となって読書時間が増え、体育の日にかかった連休中に読了した。

志賀直哉『清兵衛と瓢箪・網走まで』の感想

「菜の花と小娘」「或る朝」「網走まで」という、解説の言う“3つの処女作”を含む作品集である。志賀直哉は高校時代に教科書か副読本か何かで「正義派」を読んだだけだったのを思い出し、ふと読みだした。 数が多いので、1作ごとに概要と短評を付す形で書こう…

みうらじゅん『「ない仕事」の作り方』の感想

“本業不明”とでも言えそうな男みうらじゅんが、そういう生き方が可能であった根源である“今まで存在しなかった仕事(=「ない仕事」)を新たな仕事として成立させるにはどうすべきか”を公開した本である。家人が欲しいというので(加えて自分も「ブロスの本…

有栖川有栖『孤島パズル』の感想

江神二郎(えがみ・じろう)の理路整然たる推理が冴える「学生アリス」シリーズの第2作である。前作『月光ゲーム』の謎解きと青春ぶりが良かったので、本作も楽しみに読む。

荻原浩『花のさくら通り』の感想

へっぽこ気味な零細企業・ユニバーサル広告社の活躍を描いたシリーズの3作目である。 上製本の発刊は2012年だが、昨年に文庫化され、年明けにkindle化されたこともあり手に取りやすくなった。先日の記事で前作『なかよし小鳩組』に触れた勢いに乗って読む。 …

黒谷征吾『契り』の感想

(2004年10月読了) 出先で読むものが無くなり、たまたまあった古本屋の100円コーナーで見つけたものである。家に戻れば読むものは唸っているので、それまでのつなぎとしてなるべく軽めのものを探したところ、その薄さ(総ページ数56p)が目について手に取っ…

ガルシン『ガルシン短編集』の感想

(2004年9月読了) 処女作の特異性から「鬼才」と呼ばれ、精神を病んで33歳で自殺を試み世を去ったフセーヴォロド・ミハイロヴィチ・ガルシンだが、20程度の作品を遺したと聞く。その全てを日本語で読めるというわけではなさそうだが、「鬼才」というのが気…

河合香織『セックスボランティア』の感想

(2004年9月読了) 当時、仕事で障害者福祉について調べており、その延長として興味が湧いたので私的に読んだ。今まで“無いもの”とされていた、障害者の性に関する介護についてのレポートである。まずは各章ごとのメモを載せよう。 序章 画面の向こう側。障…

荻原浩『なかよし小鳩組』の感想

当時、日曜の朝にふと読み出し、そのまま半日ばかり読み続けて読了してしまった。へっぽこ広告会社の面々が登場する『オロロ畑でつかまえて』(当該記事)の続編である。まずはあらすじから。

吉永良正『「複雑系」とは何か』の感想

「複雑系」の科学に関する最低限の(計算式や具体的な方法論はさて置いて、という程度の)知識と、「複雑系」研究にまつわる幾つものエピソードを知ることができるのは良い。文科系的に知識として知っておくには、本書を皮切りに、この本の参考図書にも挙げ…

川端康成『伊豆の踊子』(集英社文庫版)の感想

(2004年9月読了) デビュー作「招魂祭一景」所収。「踊子」は学生時代に新潮文庫版で一度読んだのだが、処女作や新潮版に入っていない他の作品(逆に「抒情歌」「禽獣」は新潮版のみ)を未読だったので再読かたがた手に取った。こちらの収録作品は前掲2編と…

若合春侑『腦病院へまゐります。』の感想

(2004年9月読了) 煽り文句に曰く“究極の情痴文学”と言われた表題の処女作と、もう一編「カタカナ三十九字の遺書」を収める。以下まずは各篇あらすじ。

山本周五郎『花杖記』の感想

(2004年9月読了) 文壇デビュー作「須磨寺付近」所収の初期短編集である。これに加え表題作と、他に「武道無門」「良人の鎧」「御馬印拝借」「小指」「備前名弓伝」「似而非物語」「逃亡記」「肌匂う」を収めている。 とりあえず各篇のあらすじから。

岩田博『ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏 2003~2008』の感想

所属人員1名(つまり筆者である岩田氏だけ)の歴史・民俗学系出版社の岩田書院が、新刊発刊ごとに出している新刊ニュースの「裏だより」を収載した本である。一応、出版業界の端っこに生息している者として当事者意識を持って(いるつもりで)読んだ。 ちな…

伊集院静『三年坂』の感想

どの作品も、人生というものの残酷さとか煩雑さといったものに、立ち向かおうという意図を持たず、しかし立ち向かう人間の強さが滲み出ているように感じた。亡妻である夏目雅子や付き合いのあった色川武大のことに触れたあとがきを読み、この作者を少し好き…

石川武志『ヒジュラ インド第三の性』の感想

筆者の本職が写真家のため、ふんだんに写真が用いられているのは有難いと思う。ヒジュラという存在が身近でないため、文字だけではどうしてもイメージが湧き難いだけに写真は助けになるであろう。

竹島由美子・山口文彦『虹を追うものたち』の感想

素行不良だったり無気力だったりした高校生達が、演劇や厳しい国語の授業を通して変わっていく様子を描いたものと要約していいだろう。国語科教師で演劇部の顧問でもある竹島氏が、とある私立高校の特進コースから普通コースに移った1994年から始まり、途中…

阿部和重『アメリカの夜』の感想

(2004年8月読了) 阿部和重の名を、学生時代にとある教師から教えられた。その教師には別段共感するわけでもなかったが、常日頃は批判的なその教師があまり褒めるので、どんな作家かと思いデビュー作を読んでみることにした。以下、まずはあらすじ。 分裂し…

藤原智美『運転士』の感想

潔癖症の零落譚二編といったところだろうか。どちらの作品も、“人工的で清潔できっちりとしたもの”に惹かれる主人公が、何らかのきっかけによって自ら秩序を崩していく様子が描かれている。ただ、両者の色彩は微妙に異なっていると思う。

福井晴敏『川の深さは』の感想

恐らく多くの読者が指摘するところだと思うが、確かに映像的な作品である。それも終盤のスペクタクルな感じを活かすためには東宝あたりで映画化されるとよさそう…などと書いていたら、同じ作者の『終戦のローレライ』を原作とした映画『ローレライ』は東宝で…

滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』の感想

世界の不条理の具現体と戦うことで、自らに意味を見出す2人の物語、という感じだろうか。文体や設定はかなりライトノベル寄りで、適度に頭の悪い陽介視点による描かれ方はなかなか面白い。親和性が高いのだろう、映画化、漫画化もされている。

三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』の感想

純文学的なものからコミカルなものまで多彩な顔ぶれだが、なんといっても「憂国」のインパクトが凄かった。初読時、朝の電車の中で読んでいたのだが、自害のシーンに思わず吐き気を催して途中駅で降りて休むことになってしまった。これを書くために再読した…

島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』の感想

トリックは割と単純で、ある程度ミステリを読みなれた読者がよく考えながら読めば、何となく犯人像の想定はできるかと思う。『十角館の殺人』(当該記事)の衝撃が大きかったので、それを思うと小粒という感想は否めなかった。これ自体をオリジナルであるコ…

松村栄子『僕はかぐや姫』の感想

17歳から18歳にかけての女子高生が何を考えて生きているのか、がまずまず描かれているように感じた。“性以前”から少しだけ女性となった自分へ、という変転を描くのに、18歳を間近に控えた裕生を主人公としたところが心憎い。文庫版の表紙が恐らく彼女の肖像…

綾辻行人『十角館の殺人』の感想

何といっても、終盤のとある1行の価値が途轍もないと感じた。娯楽作品の場合、大体において漫画や映像作品に後れを取るというのが文字メディアへの私的な感覚だったのだが、そこに一石を投じるものであることは間違いない。21世紀も10年以上経った現在では、…

島田雅彦『彼岸先生』の感想

(2004年7月読了) 私の読書の羅針盤の1つとして、ときどき参照する福田和也『作家の値うち』での評が気になり読み始めた。以下、まずはあらすじ。 大学生の「ぼく」(菊人)は、ロシア語を専攻している。恋人の砂糖子はイタリア語学科で、その暗さと明るさ…

文部省(当時)『あたらしい憲法のはなし』の感想

私はもちろん教科書としてこの本を読んだ世代ではないのだが、たまに挿入されている図版なんかは社会科の資料集で見覚えのあるようなものもあった。例えば兵器が入れられた壺のようなものに「戰争放棄」と大書してあって、そこからビルや列車、船舶や自動車…

今野緒雪『マリア様がみてる』の感想

お姉さまと下級生の関わりが主題となった物語だが、同性愛的な色彩はそれほど濃くない。2人の交流は、ピアノを連弾したりダンスの練習をしたりと、まことに優雅な感じで進んでいく。色々なタイプのお嬢様の誰も過度に耽美に描かれることはなく、声を荒げたり…

吉本隆明『共同幻想論』の感想

一読して面食らったのは、『遠野物語』と『古事記」という民俗学的な文献を例に取っているという点だった。「序」では全世界的な視野で考えられるものとして共同幻想論を提示しているが、本編は日本国内に限られている感じがして、少し窮屈にも思えた。とは…

ドストエフスキー『地下室の手記』の感想

言で表せば、ひねくれものの独白といったところだろうか。前半は小説というよりも評論で、後半が物語という形式である。島田雅彦の『僕は模造人間』を思い出すような(むしろ順序としては本作が先であるが)、恣意と意に逆行して暴走してしまう人物の手記で…

山田宗睦『職業としての編集者』の感想

職場の上司ご推薦の1冊。編集者として仕事をするにあたり読んだ。 初版が1979年ということで、手にした時に既に四半世紀を経てた本である。ご多分に漏れず既に絶版なので、Amazonでも書影はなく、読むなら図書館か古書であろう。

平岡敏夫(編)『漱石日記』の感想

夏目漱石の日記を抜粋して編集した本である。これまで漱石の小説や随筆を読んできたが、全集の目次などを見ると日記や小さな断片まで一般人が読めるようになっている。まさかそこまで読むのも、と思っていたのだが、こうして文庫本にもなっているので、読む…