何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

小説

島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』の感想

トリックは割と単純で、ある程度ミステリを読みなれた読者がよく考えながら読めば、何となく犯人像の想定はできるかと思う。『十角館の殺人』(当該記事)の衝撃が大きかったので、それを思うと小粒という感想は否めなかった。これ自体をオリジナルであるコ…

松村栄子『僕はかぐや姫』の感想

17歳から18歳にかけての女子高生が何を考えて生きているのか、がまずまず描かれているように感じた。“性以前”から少しだけ女性となった自分へ、という変転を描くのに、18歳を間近に控えた裕生を主人公としたところが心憎い。文庫版の表紙が恐らく彼女の肖像…

島田雅彦『彼岸先生』の感想

(2004年7月読了) 私の読書の羅針盤の1つとして、ときどき参照する福田和也『作家の値うち』での評が気になり読み始めた。以下、まずはあらすじ。 大学生の「ぼく」(菊人)は、ロシア語を専攻している。恋人の砂糖子はイタリア語学科で、その暗さと明るさ…

ドストエフスキー『地下室の手記』の感想

言で表せば、ひねくれものの独白といったところだろうか。前半は小説というよりも評論で、後半が物語という形式である。島田雅彦の『僕は模造人間』を思い出すような(むしろ順序としては本作が先であるが)、恣意と意に逆行して暴走してしまう人物の手記で…

村山由佳『天使の卵 エンジェルス・エッグ』の感想

身も蓋もないことを書いてしまうが、「避妊くらいしろ」というのが読了後ほどなく到来した最初の感想だった。無粋きわまりないかもしれないが、現代の日本を舞台にしていて、しかも春妃が医師である以上、この点は物語への没入を阻害しているように思えてな…

筒井康隆『にぎやかな未来』の感想

デビュー作「お助け」を所収した短編集。短編集というよりはショート・ショート集といってよさそうな本で、全40篇超を収めている。後の自分のためにざっとタイトルのみ挙げておこう。

フーケー『水妖記(ウンディーネ)』の感想

ある程度の年齢以下の方には、ウンディーネというとサブカル(ライトノベル)領域のファンタジー小説や、コンピューターRPG(近年では『パズドラ』に出ていたと思う)でお馴染みかもしれない(かく言う私がそうである)。この小説中でも一部触れられているが…

奥泉光『ノヴァーリスの引用』の感想

(2004年4月読了) ドイツロマン派に彩られた氏の出世作。処女作はこれ以前にあるらしい。2004年当時は作家の処女作にこだわっていたので、こういう場合には困った。「処女作に全てが宿る」と言われるし、様々な作家の処女作を集めた文庫とか全集などはない…

二葉亭四迷『浮雲』の感想

どうしても文三に感情移入して読んだ。如才ない昇や、何だかんだいって稼ぎが大事とするお政などの人物にも共感しないではないが、やはり作者が主人公として配置した文三への共感ほどではなかった。

椎名誠『ジョン万作の逃亡』の感想

幻想的でアヴァンギャルドなもの、私小説風なものと系統が違うものが同居していて不思議な印象の本になっている。しかし、どうも夫婦の間のすれ違い的なテーマが執筆当時の作者の胸中にはあったようで、5作中2作はそういう作品になっている。

フランソワーズ・サガン『悲しみよ こんにちは』の感想

初読時は“アンヌの有する完璧さに対する、若さゆえの反逆”というように読んだのだが、駆け足で再読してみるとかなり印象が違った。それは初読時の訳が新潮文庫の旧版に当たる朝吹登水子で、いま手元にあるのが新潮の新版である河野万里子の訳という差異だけ…

恩田陸『六番目の小夜子』の感想

学校を舞台にした都市伝説&民俗学テイストな青春群像、というのが端的なまとめだろうか。どの登場人物もそれなりの味があり、作者の当初のイメージ通り、確かにNHKの少年少女向けドラマにはもってこいの原作と言えるだろう。

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー『貧しき人びと』の感想

何で知ったのか忘れてしまったのだが、ドストエフスキー→二葉亭四迷/北村透谷→埴谷雄高→安部公房という影響の系譜があるという。他にもドストエフスキーが近現代文学に与えた影響は甚大なようだし。ともかくその影響の発端を体験すべく読んでみる。

荻原浩『オロロ畑でつかまえて』の感想

マイナーかもしれないが面白かった。サクサク読めるユーモア小説という感じで、爆笑した場面も2つ3つあり。『吉里吉里人』を書いた井上ひさしが激賞するのも分かる東北弁の軽妙さ、というところだろうか。

コナン・ドイル『緋色の研究』の感想

初のホームズ原作は、順当にその第1作にした。世に存在するシャーロック・ホームズに関するワトスン博士の回顧録全60篇は、ここから始まったことになる。シャーロッキアンへの道程もここから始めるのが妥当だろう。

伊集院静『乳房』の感想

(2004年2月読了) 直木賞受賞作の表題作を含む短編集。他に収録作は「くらげ」「残塁」「桃の宵橋」「クレープ」。まずはそれぞれあらすじを。 「くらげ」。大学時代の友人である佐藤幸之助の妹、公子に会いに、「私」(是水)は静岡にある公子の店を訪れる…

斉藤栄『星の上の殺人』の感想

表題作が氏のデビュー作であるという。他の作品もそこそこに面白いのだが、いかんせん時代の流れでいささか陳腐になっている中、この表題作はちょっと印象的である。解説にもあったが、能舞台にも通じるような極限の箱庭化と抽象化がなされている。

太宰治『晩年』の感想

処女作。綿矢りさの影響(2003年下期の芥川賞受賞者で太宰を愛読していたとか)も少しあって読んでみることに。短編集で内容は様々である。全15編も収録されているが、なるべく簡単に概要を書いてみる。

村上春樹『羊をめぐる冒険 下』の感想

(2004年1月読了) 昨日に引き続き下巻である。まずはあらすじを。 札幌に着いた「僕」とガール・フレンド。ガール・フレンドの希望でドルフィンホテル――いるかホテルに落ち着いた2人は、「羊」を探すべく行動を開始する。が、成果ははかばかしくない。図書…

村上春樹『羊をめぐる冒険 上』の感想

(2004年1月読了) 『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く三部作のラストとして書かれた小説である。文庫版の上下巻で読んだ。ただ、これが完結編というわけではなく、この後の『ダンス・ダンス・ダンス』で完結とされている。商業作家となった作者…

島田荘司『占星術殺人事件』の感想

冒頭、殺された梅沢平吉による、占星術(というよりも錬金術、ネオプラトニズムだろうか)というモチーフを駆使しての犯罪叙述がなかなかに面白い。日本全国を錬金術的に解釈した上で犯行現場が特定されたりと、何やら荒俣宏的な展開も魅力的だ。

夏目漱石『文鳥・夢十夜・永日小品』の感想

(2004年1月読了) 漱石の文芸書(論文などではないもの)はこれで全て読んだことになる(一部2002年以前に読んだものがある)。表題の他、職業作家になり所用で上洛した際の第一印象を描いた「京に着ける夕」、ロンドン留学中の愚痴めいた内容を手紙文で綴…

有栖川有栖『月光ゲーム』の感想

(2004年1月読了) 現代日本のミステリをもっと読もうと思い購入。『カーテン』とは対照的な青春群像プラス犯人探しである。まずはあらすじを。 京都にある英都大学に入学した有栖川有栖は、EMCこと推理小説研究会に入会する。四回生で部長の江神二郎、二回…

アガサ・クリスティ『カーテン―ポアロ最後の事件』の感想

(2004年1月読了) 海外の小説にもそろそろ手を出そうと思いポアロものから行くことにする。父がかなりミステリ好きで、エラリー・クイーンやアガサ・クリスティのものは実家にもそこそこあって、この小説はそんな父が「ぜひ読め」と言ってきたものである。…

村上春樹『新版・象工場のハッピーエンド』の感想

村上春樹の随筆か創作か詩(あるいはその複数にまたがった文章)と安西水丸氏の絵を混淆させた本である。「新版」と銘打たれているのは、1983年にCBS・ソニー出版から出た旧版に、「にしんの話」と安西氏の新規画稿を加えたものだかららしい。

法月綸太郎『密閉教室』の感想

(2003年11月読了) 現代日本のミステリを読もうと思って手に取った。法月綸太郎のデビュー作である。まずはあらすじ。 湖山北高校の3年生の教室の1つ、7R(ルーム)は、ある朝、不可解な現象に見舞われる。一番に登校してきた梶川笙子がドアを開けようと、…

花村萬月『あとひき萬月辞典』の感想

それは置いておいて変な本である。「辞典」とある通り、「匂い」とか「音楽」といった言葉ごとに章が区切られ、そこに1つ以上のエッセイなり掌編なりが置かれている。もっと大部になる予定だったようだが、発表先などと折り合いがつかず、全9章というこじん…

夏目漱石『道草』の感想

大学教師の夫とクールな妻。それと金を腐心してもらいに来る老いた養父母に兄や姉。こうした構図は、『吾輩は猫である』を執筆していた頃の漱石の境遇そのままであるとの指摘がある。それまでは自分と似て非なる人物たちを描き続けてきた作者が、最後に完成…

新井満『ヴェクサシオン』の感想

「千の風になって」で有名になった新井満氏による小説である。読んだ当時、既に同曲は発表されていたようだが、私は単に「尋ね人の時間」で芥川賞を受賞した人の作品として読んだ(ちなみに「尋ね人…」は未読である)ように記憶している。表題作と、姉妹編と…

夏目漱石『行人』の感想

『行人』は、あまりメジャーでないように感じるが、『彼岸過迄』(当該記事)に続き、一般的に言われる後期3部作の2作目とされているようだ(最後の1作は有名な『こころ』である)。