浅田次郎『薔薇盗人』の感想
著者のデビュー作ではないが(私は割と作家のデビュー作に注目するタイプである)、秋葉原のキオスクで暇つぶしに購入した。
概要
いつも通り(と言ったら失礼なのだが)の親子の感動話、企業の内輪話などを6篇を集めた短編集。統一感はあまりない気がする。その中では「あじさい心中」などで描かれているような“場末感”が、やはりこの作者の持ち味ではないだろうか。例えば「鉄道員」とか「ラブレター」とか、地方の寂びた情景を置きつつ、そこで交錯する人情を描くといった作品群の味わいに近い。
「薔薇盗人」について
表題の「薔薇盗人」は三島由紀夫の「午後の曳航 」へのオマージュとか。浅田氏における三島の影響はかなり大きいようだ。「薔薇販売人 」なら吉行淳之介の初期作品(恐らくは小説としての処女作だろう)にあったと思うが、それとの関係はあるのかどうか。
いずれにせよ、この表題作は少年主観の書簡体によって語られる姦通小説である。分かっているのかいないのか、『ドラえもん』の出木杉君みたいに優等生な(少なくともそう読める)少年の手紙を通して語られる不義というのは、なかなかにどぎついものがある。
「午後の曳航」との関連性については、三島の方を読んでみないと何とも言えない。そちらを読んで、またこの本に戻ってくるのも面白そうだ。