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石隈利紀『学校心理学』の感想


(2004年3月読了)

 仕事の資料として読んだ専門書である。2001年度から公立の学校にスクールカウンセラーが本格配置されたが、それに関わる本を作る可能性があったので勉強しなければならなくなったために読んだ。

本書の概要

 この本は、スクールカウンセラーを含む、教育に携わる人々を対象に、学校という現場に特化した心理学としての学校心理学を論じた本と言えるだろう。

 全11章が理論編(1~7章)と実践編(8~11章)に分かれている。前者では学校心理学を構成する概念や成立の歴史など、後者は実際に子どもに対して(時には保護者や教師にも)行うアセスメント、カウンセリング、コンサルテーションといった技法の具体的なやり方などを紹介している。

 学校心理学とは、それまでバラバラに(ある意味で雑多に)行われていた、生徒指導、カウンセリング、コンサルティング(もっと卑近なところを含めれば、ただの雑談だったり近所のおじさんと遊ぶこと)などの概念をまとめ直し、秩序付けし直したもの、という印象を受けた。確かに言わんとしていることはよく分かる。

 ただし文章が硬い。これは、専門書なので仕方ないところかもしれない。

感想

 筆者はアメリカで学校心理学を学んできた(というか、ほぼ実地での訓練だったようだが)からか、アメリカの学校での子ども達への関わり方の実情を紹介しつつ(日本での実例もあるが)、描かれる児童生徒および学校支援の形はすごく理想的である。教育現場が大変だということは、この本が出た時も今も、変わらず言われていることで、そんな中でここまで理路整然とした対応が全国の学校でできているのか、その点については私は懐疑的である。

 それでも、理想を声高に語ることは必要だと思う。そして当然、理想通りに実践できるかが課題となる。筆者がどう実践していったのか、それをまとめた本が出ているのなら、少し読んでみたい。

 全体的に硬い本だが、著者は映画好きらしく、随所に挿入されているコラムではカウンセリングの理想像として寅さんを挙げたりしている。他にも結構な数の有名無名な映画に言及していたりするので、そこだけ拾って読めばなかなか面白かったりもする。

 それと、収録されていた、クラスの人間関係がうまくいっておらず保健室登校している女の子が、それでも文章完成法で「友達は[宝物です]」とした事例は、なんだかとても心に残るエピソードだった。

 

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