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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

有栖川有栖『月光ゲーム』の感想


(2004年1月読了)

 現代日本のミステリをもっと読もうと思い購入。『カーテン』とは対照的な青春群像プラス犯人探しである。まずはあらすじを。

 京都にある英都大学に入学した有栖川有栖は、EMCこと推理小説研究会に入会する。四回生で部長の江神二郎、二回生の望月周平、織田光次郎と計4人のサークルである。
 夏休みのキャンプ合宿として、EMCの面々は長野県と群馬県の境近くにある矢吹山を訪れる。道中で出会った東京の雄林大学ウォーク(山歩き・ハイキング同好会)のメンバープラス法学部の3人、神戸の神南学院短期大学英文科の3人娘といった面々と共に、キャンプ場は総勢17人の大所帯に。山の中という解放感もあり、彼らは打ち解け、昼は山歩き、夜はEMC発案のマーダー・ゲームなどで楽しんでいた。有栖は神南学院短大の姫原理代に心惹かれ始める。
 しかし、3日目の朝、理代の友人のサリーこと山崎小百合が「下山する」と書き置きを残して姿を消していた。一同が事態を飲み込めないうち、休火山とされてきた矢吹山が突如として噴火、山崩れが起きて下山不能となる。
 どうにか1日をやり過ごした翌朝、1人の刺殺体が発見される。地面に「y」という文字を残して。噴火で孤立したキャンプ場で行われた殺人は、滞在者の中に犯人がいることを指し示す。一同は怯え、EMCは日頃の研究を活かそうと捜査を開始するが、進展はない。その夜、2度目の噴火が一同を襲い、それが鎮まると滞在者の1人の姿が見えない。更にその翌晩には、行方不明の者とは別に2人目の刺殺体が発見される。死体の傍らには、今度は筆記体で「y」と記されていた。
 サバイバルの色を濃くしていくキャンプ場でのオーバーステイと、終わりの見えない火山活動。一行は決断し下山を始めるが、噴火により吊り橋が落ち、救助を待つ他ない状況に追い込まれていく。満身創痍でうずくまる彼らの中、江神は推理を試みる。

 火山の噴火といういささか突飛な設定( 火山活動が活発化している2015年現在からすると、そうとも言い切れないかもしれないが)の下での殺人事件だが、深沢ルミや江神による月談義や哲学的モチーフがミステリアスな雰囲気を醸し出しており面白く読んだ。それに、まだ殺人が起こる前の皆の雰囲気はとても楽しそうで、そこにも強く惹かれた。
 考えたら、高校時代に天文部にも籍を置き月一ペースで山に星を見に行く生活をしていたので、山の夜というシチュエーションだけでもう共感の度合いが強いのである。夜空が曇ろうものなら、それこそトランプだのウノだのといったゲームをして時間をつぶしていたし、夜空の下では自分も友人たちも昼間とは違った一面が出てくるということも理解していた。それだけに、夜と月に彩られたこのミステリ作品は、私の感覚にぴたりと嵌ったと言えると思う。
 幻想的な意匠が凝らされつつも、推理ものとしてはガチガチの論理ミステリとなっているところも私には魅力的だった。たった1つの違和感から、真相が導き出されていく様は混迷した事件の中で希望として描かれている。江神が真相を暴く前に、「読者への挑戦」という頁が挿入されているのだが、これはなかなか燃える趣向だ。エラリー・クイーンは未読なのだが、そちらもこうした頁があるのだろうか(後日クイーンを確認したところ、やはりそういう頁があった)。
 ただ、そうした論理の光が払い除けてしまうのは、先に述べた幻想的な意匠でもある。“謎を解いてみると、真相はタイトルからかけ離れたものだった”というのは少しばかり興ざめではあるが、謎が謎のまま話が終わってしまってはやはり中途半端でもあるし、ミステリの宿命と言えばそんな気もする。

 

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