何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

花村萬月『ゴッド・ブレイス物語』の感想


(2003年7月読了)

 処女作である表題作と、もう一本「タチカワベース・ドラッグスター」という短編を収める。文庫で読んだのだが、ハードカバー版の表紙がとても良いと思ったので上の画像はそちらのものである。

 簡単な筋を。
 「ゴッド・ブレイス物語」。19歳の麻倉朝子はハード・ブギをメインに演るバンド“ゴッド・ブレイス”のボーカルで、バン・マス(バンド・マスター)。メンバーはギターのヨシタケ、ドラムのカワサキ、ベースのタツミ。付き合いのある芸能事務所の社長からうまい話を持ち掛けられ、京都まで遠征したが、そこで待っていた仕事は聞いた話とまるで違っていた。
 朝子はメンバーと、ついてきてしまったカワサキの息子の健と1か月の共同生活を送る。つのる欲求不満、ヨシタケとカワサキの秘密、先方の社長で元ヤクザのタカクラとの不器用な交情、そして死んだイシガミへの想い。男たちへの侮蔑のような慈愛を抱きつつ、朝子は最後のステージに立つ。

 「タチカワベース・ドラッグスター」ベトナムでの戦争が終わる前。立川の米軍基地に出入りするテツオは、整備兵のヘンリーと共に横田基地とのドラッグ・レース――ゼロ・ヨン勝負に挑む。ヘンリーの情人をして暮らしている姉のミエを想いと、米兵への乾いた感情。それらを押し込め、1200ccエンジンを二基連結したモンスターマシンをテツオは駆る。

 二編に共通しているのは、性的な描写が明け透けである、ということだろうか。恐らくそれは、暴力の描写と同様に以後の花村作品にも通じていることだろう。暴力についても、それほど過激でないにせよ「ゴッド・ブレイス~」ではみられる。「処女作に作家の全てがある」というのは、ある程度は信憑性がありそうだ。
 セックス&バイオレンスな部分があるのは読者を選ぶかもしれない。しかし、それにしては、読後感が爽やかなのである。特に「ゴッド・ブレイス~」の、クライマックスのリリシズムはどうだろう。救いというか奇跡がある。
(そういえば「リリシズム」という言葉を何となく使っているが、単に「抒情性」と言っても分かるような分からんような気がする。コトバンクの記述が詳しいが、もっと噛み砕けばまさに“ロックスターの野外ライブが最高潮の時に雨が降ってくる”ことだと私は思う。)
 ↓アマチュア(だと思う)のカバーだが、劇中に出てくる「The sky is crying」をYouTubeで見つけたので貼っておこう。


The sky is crying (Cover) / Lina feat.fdk - YouTube

 私は楽器が弾けない。なので、楽器ができる人は無条件に羨ましいのだが、朝子にも同様の感情を抱いた。19歳にしてはちょっと内省し過ぎ、男に理解があり過ぎとも思うが、そういう19歳が居ても悪くないと思えてしまう。

 もう一方の「タチカワ~」は30ページ足らずの作品だが、メカニックな部分やタフな感覚が読んでいて楽しい。それでも直線のコースでの速さを競うというゼロ・ヨンの単純さに、ベトナムに「正義のナパーム」を落とすアメリカを重ねる辺りに、単純な娯楽作品ではないという声明をみた気がする。 

ゴッド・ブレイス物語

ゴッド・ブレイス物語

 

 

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