何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

綾辻行人『十角館の殺人』の感想


(2004年7月読了)

 島田荘司有栖川有栖に続いて、いわゆる現代日本の新本格ミステリの一角、綾辻行人の処女作を読む。ちなみに「○○館の殺人」というタイトルで統一される、「館シリーズ」なる一連の作品の第1作でもある。私は旧版の講談社文庫版で読んだのだが、上に挙げた改訂新版では物語を楽しむためにレイアウト上の配慮がされているとのこと。とりあえずあらすじを。

 半年前、凄惨な四重殺人と火事の起きた大分県の無人島、角島。春先を迎えたその島を訪れる者たちがいた。彼ら7人は、とある大学のミステリ研究会の主要陣ともいえる学生たちだった。エラリィ、アガサ、ポウ、カーなど往年の名作になぞらえたニックネームで呼び合う彼らの目当ては、四重殺人があり今では焼跡を晒している中村青司邸、通称「青屋敷」の跡地と、その別館で正十角形をした奇妙な館「十角館」。ミステリ趣味が高じ、伯父が不動産業を営むヴァンの手配で「十角館」に1週間滞在するつもりでやってきたのである。
 会誌の時期編集長であるルルゥの求めで滞在中に原稿を書くことになりはしたものの、一同は軽い気持ちで無人島暮らしを楽しむつもりだった。初日の夜は何事もなく更けてゆく。
 同じ頃、かつてミステリ研究会会員だった江南孝明の元に、故人であるはずの中村青司からの手紙が届く。「お前たちが殺した千織は、私の娘だった」――昨年、ミス研の新年会で急性アルコール中毒で持病の発作が出て死んだ中村千織について告発するような文面に胸騒ぎを覚えた江南は行動を開始し、中村青司の実弟の紅次郎と、その友人の島田潔に接触する。さらに江南は同じ手紙の届いた会員の守須恭一にも声をかけ、過去の四重殺人は再考されていく。
 一方、角島の7人をついに惨劇が襲う。1人、また1人と不審な死を遂げていくメンバーたちの中で、残された者たちは疑心暗鬼にかられながらも推理を重ねていく。誰が、なぜ、彼らの命を狙うのか――。

 何といっても、終盤のとある1行の価値が途轍もないと感じた。娯楽作品の場合、大体において漫画や映像作品に後れを取るというのが文字メディアへの私的な感覚だったのだが、そこに一石を投じるものであることは間違いない。21世紀も10年以上経った現在では、主に通信機器の発展によって 通用しないだろう仕掛けではあるが、それでも文字メディアへの希望を抱かせてくれる。
 舞台設定の話をすれば、先日の有栖川有栖『月光ゲーム』(当該記事)と登場人物、シチュエーションともに似通っている感じがしなくもない。発表の順序からすれば本作の方が僅かに早いのだが、作者の年齢や出身、通っていた大学が近く、シンクロニシティめいたものを感じる。
 ちなみに、「ちょっぴりおとなっぽくて、おもしろさ抜群!」という触れ込みのティーン向けレーベル「YA!ENTERTAINMENT」版もある。といっても、登場人物の画を示した表紙と判型くらいしか違いはないのだが。

十角館の殺人 (YA! ENTERTAINMENT)

十角館の殺人 (YA! ENTERTAINMENT)

 

 それなりに陰惨な展開をする作品なので、「YA!ENTERTAINMENT」で出していいのかな、と思いもする。が、それこそ多くの若い読者にとって、そういうものは漫画や映像作品で見慣れているので特に問題ないのかもしれない。
 大いに驚愕する作品なのだが、『月光ゲーム』のようなカタルシスには少し欠けるかと感じた。有名推理作家たちの名を冠した彼らには、もう少し活躍の場があってもよかったのではないか、とも思うのである。ホラーも手掛ける綾辻氏だけに、人物たちが活躍するよりも混迷していく様を前面に出したいという意図もあるということだろうか。
 それと全くの余談だが、喫煙者が多く登場し、それぞれ美味しそうに紫煙をくゆらせるので、思わず読む方も煙草が吸いたくなる作品でもある。もともと私には学生時代に少し嗜んだ程度の喫煙歴しかないが、それでもそういう気になるので、禁煙を考えている場合は要注意と言っておこう。