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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

筒井康隆『にぎやかな未来』の感想


(2004年5月読了)

 デビュー作「お助け」を所収した短編集。短編集というよりはショート・ショート集といってよさそうな本で、全40篇超を収めている。備忘のために、まずはざっと各編のタイトルを挙げておこう。

超能力/帰郷/星は生きている/怪物たちの夜/逃げろ/事業/悪魔の契約/わかれ/最終兵器の漂流/腸はどこへいった/亭主調理法/吾輩の執念/幸福ですか?/人形のいる街/007入社す/踊る星/地下鉄の笑い/ながい話/スペードの女王/欲望/パチンコ必勝原理/マリコちゃん/ユリコちゃん/サチコちゃん/ユミコちゃん/きつね/たぬき/コドモのカミサマ/ウイスキーの神様/神様と仏さま/池猫/飛び猫/お助け/疑似人間/ベルト・ウェーの女/火星にきた男/差別/到着/遊民の街/無人警察/にぎやかな未来

 それなりの分量であるが、1日で読了した。大まかにいって、前の方に現代SF、後ろの方に未来SFという並べ方がされているようである。テーマは多岐に渡るが、マスコミ・広告というものへの反感が結構な頻度で表れているように思う。
 次から次へ頁を繰らせるのはやはり作者の力量か。それとも、分かりやすい(=当時としては新奇だった物語が、今では陳腐化している)ということだろうか。
 それにしても「わかれ」「幸福ですか?」「踊る星」あたりは意表を突かれた。
 「わかれ」は、何故だか会社の上司や世の中の人に対しても居丈高であることが許されている男の話である。周りの人が腫れものに触るように接してくるのには、彼の妻に関わる地球規模の事情がある。個人よりも全体が優先される社会への風刺SFといったところだろうか。
 「幸福ですか?」は街角でインタビューをする女性アナウンサーとそれを受けた男のやり取りだが、マスコミの傲慢さへの批判が感じられる。傲慢さを更に上から目線で嘲る辺りが筒井康隆の持ち味なのだろう。意外性もあって痛快な一篇だった。
 「踊る星」は星間宇宙船が飛ぶくらいの世界が舞台のSFである。「踊る」とは、文字通りダンスでもあるし、本意でない仕事やら何やらに忙殺されることでもある。確かに私も日々の仕事に囚われて“踊って”いる側面が無きにしも非ずで、全篇のうちで最もヒヤリとしたものを感じた。

 その他、面白味を感じた作品を挙げておくと、「怪物たちの夜」「悪魔の契約」「亭主調理法」「パチンコ必勝原理」「ウイスキーの神様」「お助け」「にぎやかな未来」あたりだろうか。「怪物たちの夜」「亭主調理法」は小説でなければ不可能なやり方をしているし、「悪魔の契約」は現代的な『ファウスト』という感じ。「パチンコ必勝原理」はストーリーは無いに等しいが細かな描写が楽しい。「ウイスキーの神様」は星新一的な“○○の神様”によるしっとりとした恋物語。「お助け」は時間の流れが極度に遅く感じられるようになった男の残酷話。表題作「にぎやかな未来」は過度に広告手法が進展した未来の話である。最後の「にぎやかな未来」は、例えばネット上での種々の形態の広告を思い出させてくれる。

 総じて言えば、退屈しない短編集である。また、解説の言葉を借りるならば“本当の狂気”の世界を見せてくれる、とも言えるかもしれない。

にぎやかな未来 (角川文庫)

にぎやかな未来 (角川文庫)

 

 

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