何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

坪井栄『二十四の瞳』の感想


(2003年5月読了)

 有名な話だが初読。
 昭和3年、「瀬戸内海べりの一寒村」(自分が読んだ新潮文庫版の裏表紙では「小豆島」とされているが、本文中では特定されていないと思う)の分教場に赴任した師範学校出の若い女先生、大石久子。ハイカラな彼女は担任する12人の子ども達や、村の人々に最初こそ訝しまれるものの、次第に打ち解ける。
  小さな学び舎の平穏な日々が続くかと思われるが、時代は戦争へと向かっていく。

 暗い世相の中で少年少女は、そして教師はそれぞれの道を歩み、喪失を味わい、戦争が終わった翌年に再会するのだった――。

 という物語。映像化は何度もされているようだが、私としては2度目(1987年)に映画化されたものがいいと思う。  

木下惠介生誕100年 二十四の瞳 Blu-ray(1987年度版)

木下惠介生誕100年 二十四の瞳 Blu-ray(1987年度版)

 

  先生ものの草分けだが、思ったよりも学園生活について描かれている部分は少なかった。前半は先生の葛藤とか喜びとか、いかにもなのだが、中盤以降は概ね反戦小説である。
 自分の了解が間違っていただけなのだが、ちょっと裏切られた気分はした。もっと瀬戸内のたゆたゆとした海辺の風景の中で繰り広げられるハートウォーミングな物語だと思っていたのだ。

 が、しかし、予想が裏切られただけで、作品としてはすこぶる面白かった。 
 作者が戦争経験者である以上「戦争は悲惨である」というメッセージ性を湛えているのは疑いが無いし、それを斜に構えて批判するつもりもない。

 なのでそれは置いておくとして、初登場時は若く美しく、やがて結婚して子を産んで、苦労し老いていく大石先生の心境が過不足なく表現されていると思ったし、彼女を受け入れた村人たちの、基本的には善良であるものの、ムラ社会特有の厭らしさも同居している辺りが真に迫っていると思った。
 それにやはり12人の子ども達の成長ぶりだろう。これも、単に「あんな子だったのに立派に成長しました」という書きぶりではない。直った欠点もあればそのままの欠点もあり、日の当たる道を行く者も裏道の者もいる。
 もちろん彼らの人生に戦争が多大な影響をもたらしていることは明白だが、彼らの半生を変に感傷的にならず克明に描いた点は、戦争云々とは別のところでこの小説の魅力に繋がっていると思う。

二十四の瞳

二十四の瞳