何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

荻原浩『オロロ畑でつかまえて』の感想


(2004年2月読了)

 もちろん『ライ麦畑でつかまえて』の本歌取りであるタイトルに惹かれて、読み始めた。とりあえず、まずはあらすじを。

 奥羽山脈の一角にある牛穴村。そこの青年会(といっても大半は30歳過ぎだが)は過疎にあえぐ惨状を打破すべく話し合いをしていたがなかなか名案が出ない。唯一東京の大学出で村唯一の温泉宿の若主人慎一は、一計を案じる。東京の広告代理店に村おこしのプロデュースを依頼しようというのだ。
 一方、弱小広告代理店であるユニバーサル広告社で企画・制作を担当する杉山は燻っていた。酒癖の悪さもあって妻とは離婚、サッカーを愛する男前の一人娘、早苗とも離れ離れ。大手の代理店から移ってきた会社は零細で傾いている。コンドームの広告コンペに参加するも、当然のごとく上手くいかない。
 上手くいかないのは牛穴村の村おこしも同じで、慎一の大学時代の同級生だった大手代理店の男には軽くあしらわれる始末。彼らがふと目に入ったユニバーサル広告社に飛び込むことで、田舎と零細広告企業のタッグはまとまる。
 ロケハンに赴いた牛穴村はド田舎もいいところで、杉山もデザインの村崎も社長の石井もそのムードに終始押され気味となる。ヘラチョンペ、ゴゼワラシ、クモタケ、そしてオロロ豆…どんどん出てくる珍妙な名前の特産品をヒアリングするも、なかなか良いプロモーションが思い浮かばないが、ついに杉山は1つの企画をぶち上げる。それは、村にある龍神池に住まう謎の恐竜ウシアナザウルスを捏造し、マスコミに報道させようというものだった。
 犯罪ぎりぎりの広告戦略はまさかの成功をおさめ、村にはマスコミと野次馬がおしかける。しかしそれは、ウシアナザウルス改めウッシーに対し、やがて厳密な考察を呼ぶことになっていく。
 牛穴村の青年たちの、ユニバーサル広告社の面々の、そしてマスコミの中に身を置く女子アナの狂騒の夏は、得も言われぬプレミアム(キャンペーンの景品、おまけ)を残して去っていく。

 マイナーかもしれないが面白かった。サクサク読めるユーモア小説という感じで、爆笑した場面も2つ3つあり。『吉里吉里人』を書いた井上ひさしが激賞するのも分かる東北弁の軽妙さ、というところだろうか。方言の用い方、いかにもといった感じの田舎の名産やら文化やらの設定の巧さが楽しかった。

 この楽しさで不意に思い出したのは、高校の時に図書室だったかにあったビデオでみた、当時の高校生の創作演劇『ゆうたっちょの中学生絵日記』である。いちおう、当時の高校演劇界で何らかの賞を取った(だから縁もゆかりもない私の高校にもビデオがあったのだろうけど)と思うが、知名度は低いだろう。
 …と思って検索してみたら、作者の方のウェブサイトを発見した。現在はご出身地の山形で、ウェブ関係の仕事をしながら他のもの(演劇とか?)も創られているようである。もしかして自分の連想の背景に、牛穴村も山形だったなどという奇妙な一致があったりするのだろうか。「奥羽山脈沿い」なら可能性は無いでもないだろう。

 それはそうと、やや予定調和な展開(女子アナはもっと冒頭から出てれば良かったのにと思う)が気になるが、読者に卑屈でない笑いを与えるという意味ではなかなかに稀有な作品だと思う。続編『なかよし小鳩組』やミステリ『噂』も気になるので、探してみようと思う。 

 

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