何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

鈴木光司『らせん』の感想


(2003年11月読了)

 『リング』当該記事)に続く“わっかシリーズ”その2である。まずはあらすじを。

  監察医の安藤は、海での不注意で幼い息子を亡くし、別居中の妻からなじられ続け、ついに離婚を言い渡される。そんな彼が解剖することになったのは、不可解な死を迎えた学生時代の友人、高山竜司。死因を心臓の冠動脈の閉塞による心不全とした安藤だったが、縫合した竜司の腹からはみ出た新聞紙の数字を暗号ではないかと感じ、何かを予感する。
 安藤は竜司の元助手だという高野舞と会い、死の直前に竜司と関わりのあった浅川和行という男と、謎のビデオのことを聞く。友人で病理学を専門とする宮下の協力を得た安藤は、竜司や同時期の死亡事案に未知の感染症を疑う。それとともに、妻と娘を喪い廃人となった浅川、浅川の元同僚の記者・吉野、浅川の兄である順一郎らと接触し、浅川和行が残した調査レポートから、25年前に死亡した超能力者・山村貞子と彼女の呪いについて知ることとなる。
 一方、竜司の遺品からビデオテープを見つけた高野舞は、そのビデオを視聴後まもなく失踪する。舞に異性として魅力を感じていた安藤はその身を案じながら調査を進め、やがて一連の不審死体から、天然痘ウイルスと人間の遺伝子情報が混合したウイルスを検出する。竜司から検出したウイルスだけに特定の塩基配列があることから、それを竜司が残した暗号と考え、安藤は解読を試みる。その結果、読み取れたのは「突然変異」という言葉だった。
 無事を祈っていた舞は死体となって発見され、浅川も息を引き取る。解剖された舞には妊娠・出産した形跡があったと伝えられ、安藤は動揺する。また、安藤と宮下は浅川のレポートを読むことで、自分たちも貞子のウイルス――リングウイルスに感染したのではないかという疑念も持つのだった。
 失踪した舞を追う過程で見え隠れしていた女が、安藤の前に姿を現す。第一印象は不気味でありながら、舞の姉と名乗る彼女に安藤は惹かれ、交わりをもつ。宮下からのファックスは、彼女こそ、舞の子宮を借りて再生(再誕生)した山村貞子であることを示していた。舞の卵子、浅川のレポート。貞子の念は、それらを媒介してビデオテープから新しい形に変異していたのだ。
 貞子は、安藤に対して取り引きを持ちかける。それを飲めば、安藤は人類を裏切ることになり、貞子は地上に跋扈する。激しく葛藤するとともに、発端となった新聞紙など2つの暗号を残し、舞を巻き込んだ竜司が、裏で糸を引く貞子の結託者であることに気付いたのだった。

 「前作のスケールを超える」と言う文句は、続編作品にありがちな文言だが、この小説について言えばスケールというかジャンルを飛び越えた感じがしている。呪いのビデオが最大限科学的に説明し直された感じで、ある意味では興味深く、ある意味では肩透かしを食ったように思えた。ホラー小説というよりも、SFおよびファンタジーの領域だろう。作者のデビュー作『楽園』は日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受けているし、これが本来の持ち味ということかもしれない。
 ともあれ、遺伝子に暗号解読、ウイルスと生命の定義など、しっかりと道具立てを整えた上で展開される貞子の野望の物語には引き込まれる。孤独な主人公と家庭を持った協力者という、前作の浅川と竜司とはちょうど反転した境遇にある2人を謎解きの中心に据えた構成も面白い。最後まで一気に読んだのは事実である。

 が、しかし、物足りないというか飽き足りない感覚はどうしても残る。前作の枠組みを大きく超えたあまり、続編としては少しばかり異色になってしまった印象が拭えないのである。
 それは、前作で私が気に入っていた竜司の印象ががらりと変わったためもあろうし、浅川一家が無慈悲にも全滅してしまったせいでもあるだろう。しかし何よりも、前作では絶対的な恐怖の根源として登場していた貞子が受肉して安藤たちの前に表れて、会話でコミュニケーション可能なところが、いちばん違和感があるだろう。あまつさえ安藤に宛てて丁寧な言葉で置手紙なんて書いてくれるなんて、もちろん恐ろしい相手には違いないが、恨みとか憎悪の念の化身という存在からは隔たったなぁ、という感じがする。
 …むしろ、安藤を促して映画を観たりハンバーガーを食べたり本屋で1時間も立ち読みをする彼女には親しみめいたものまで感じた。貞子人気が全盛のころ、ネット上の一部では彼女に“萌え”る人々があったが、本作のこうした描写が一因になったような木もする。

 ともあれ、総合的な感想は3部作ラストの『ループ』を読むまでとりあえず預けておこうかと思う。もっとも、それ以降も『バースデイ』『エス』『タイド』と、続編とされる作品が、それこそ貞子のように増殖してはいるのだが。
 (2015年8月8日現在、結局『ループ』に手を伸ばさず過ごしてきている。3部作を総括するのは、いつになることやら。)

 

広告を非表示にする