何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

辻仁成『冷静と情熱のあいだBlu』の感想


(2003年6月読了)

 2001年に公開され、ちょっと話題になった映画の原作として、私はこの2冊を知った。江國香織辻仁成が、それぞれ女と男の視点から、かつて恋人同士で、今は別々の道を歩いている2人と、彼らの“約束”の顛末を描いている。
 今風に言えばコラボ小説ということになるだろうか。ちなみに私は映画の方は観ていない。 

冷静と情熱のあいだ(通常版) [DVD]

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  雑誌掲載の順序と同様、赤から読み始めて1章ずつ交互に読み、最後に青を読み終えた。この順番でよかったと思う。逆だと最後が少し興ざめになるだろう。
 それならここでも赤から取り上げるべきだとも思うが、物語の主体としては何となく江國香織の方っぽいので、この順序で記す。

 青は、阿形順正(あがた・じゅんせい)というちょっと作者を思わせる名の、絵画の修復士をしている青年の“流浪と再生”風の物語。流浪といっても物理的な移動はイタリア国内と東京くらいで、精神的な流浪というべきだろうか。そこに彼の工房でのとある事件と真相というミステリ的要素なんかも挿し込まれ、全体的に憂愁を帯びたストーリーだ。

  旧い街と絵画の修復というモチーフは好きである。画家の道に挫折して西洋画の修復士をしているという設定なので、比喩も西洋美術っぽいものが多く綺麗な味わいがする。

 それだけに「しんと静まり返った境内を一本の箒で掃除をしているような静かな感動」(文庫版p.188)という表現は、いささか不整合な感じがした。「境内」は、辞書的には確かに教会の敷地をも意味するみたいだが、多くの読者が想起するのはやはり神社か仏教寺院じゃないかと思う。「聖堂」とでもしたらよかったんじゃないだろうか。

 そうした比喩を含みつつ、辻仁成らしいといえばらしいナイーブな文体だが、彼の作品なら『そこに僕はいた』くらいの文章(あれはエッセイだけど)が好きな自分には、ちょっと甘々な感じは否めなかった。それでも主人公の叔母である文江の芸術家としての言葉は心に残ったので、これを引いて青については終わりにしよう。

「……いい、芸術家はね、余計なことでくよくよしないで自分さえ信じていれば絶対に登っていけるものなのよ。男だとか女だとか、名声だとか成功だとか、それは創作活動にまったく関係のないこと。……」(文庫版p.178)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

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