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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

恩田陸『六番目の小夜子』の感想


(2004年2月読了)

 不意に地方の高校生を主人公とした小説を読みたくなり、未読の山から引っ張り出した。期待通りの青春成分を含む作品で満足である。以下、まずはあらすじを。

 恐らくは東北地方の海沿いの市にある進学校。そこには『サヨコ』という奇妙な伝統行事が伝わっていた。行事といっても、学校や教師が関知しているわけではない。
 先代の『サヨコ』から選ばれる形で『サヨコ』は継承され、3年に1度、新たな『サヨコ』は、周囲に自分がそうであることを知られずに立ち回り、あること――10年以上前、学園祭実行委員会に匿名の生徒からもたらされ、不思議な曰くのある一人芝居の台本『小夜子』を凌ぐ演目を自ら考えるか、あるいは『小夜子』を再演するか、何もしないか――をしなければならないのだ。今年は伝統が始まってから6番目の『サヨコ』が出現する年になる。
 春。新たに選ばれた新3年生の『サヨコ』は最初の務めを果たそうとする。が、そこにはもう1人のサヨコ、転入生の津村沙世子の姿があった。混乱する『サヨコ』をよそに、美しく、文武両道でミステリアスな雰囲気を漂わせながらも人懐こい沙世子は同じクラスの花宮雅子らとも打ち解け、校内の人気者になっていく。沙世子にただならぬものを感じた秀才の関根秋は、単純だが明朗な唐沢由紀夫、由紀夫に想いを寄せる雅子と共に『サヨコ』と沙世子の関係を考え出す。その中で、本来『サヨコ』であった生徒は不可解な現象に巻き込まれ、入院する。
 夏。学校の講習の日々を過ごす秋、由紀夫、雅子、沙世子の4人は、束の間の休みを楽しく過ごそうと計画する。秋自身すら気づかない本心に斬り込む沙世子。一旦はなれて移動中、雅子と沙世子は不良に絡まれる。1人残った沙世子だったが、何らかの“力”が彼女を護るのだった。
 秋。学園祭の準備が進む中、実行委員長の設楽正浩のもとには差出人不明の台本が届けられる。演目は『六番目の小夜子』。学園祭初日、公演された『六番目の小夜子』は、全生徒の意表を突くものだった。台本に触れ、同化し、ついには恐慌状態となる生徒たち。折しも学校の側を竜巻が襲ったが、あとは何事もなく、秋たちのクラスは料亭の跡取り息子の溝口の案による『うたごえ喫茶 みぞぐち』の強烈な人気によっててんてこ舞いするのだった。
 冬。受験が近づく中、由紀夫と雅子は付き合い始め、秋と正浩は『サヨコ』と沙世子について調べ続けていた。由紀夫たちは、惹かれあっているように見える秋と沙世子を仲立ちしようとするが、秋を3年間想い続ける佐野美香子の存在があった。秋との関係を疑い接近してきた美香子に対し、沙世子はある狙いをもって友好的に迎える。学園祭実行委員だけが閲覧できる『サヨコ』に関するマニュアルを見た秋は、円環していく学校という世界に不思議な無力感を覚えつつも、ついに沙世子本人から経緯を話してもらう約束をとりつける。沙世子との約束の日、気まぐれから学校に向かい美香子の屈折した思いによる凶行に触れた秋は、意識を失う間際に、駆け付ける沙世子の姿を見る。
 そして再びの春。それぞれの思いを抱きながら、彼らは卒業し、恐らくは『サヨコ』は続いて行く。

 期待通りの青春成分に、学校を舞台にした都市伝説&民俗学テイストな群像劇、というのが端的なまとめだろうか。どの登場人物もそれなりの味があり、作者の当初のイメージ通り、確かにNHKの少年少女向けドラマにはもってこいの原作と言えるだろう。そして実際、NHKのドラマとして制作・放映されたそうである。残念ながら私は未視聴だが、話数も手ごろだしレンタル等で見ても良いかと思う。ちなみに原作にかなりの翻案・脚色が加えられており、沙世子役は栗山千明との由。

六番目の小夜子 第一集 [DVD]

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  原作の話に戻そう。学校というものが閉鎖された世界だという認識は多くの人が肯定するところだと思う。先日の『密閉教室』(当該記事)なんかもその変形として捉えられると思うが、その“閉鎖感”をある意味心地よく描いているところが、本作一番の魅力ではないかと思う。演目『六番目の小夜子』の上演シーンは、その意味で圧巻だった。
 それなりの進学校で行事に力も入れていて、という共通点から、本作を読みながら、私は自分が高校3年生だった頃のことを濃厚に思い出した。思えば、受験生だった私が当時感じていた閉塞感は、実は安心と結構近いものだったのではなかろうか。そういう感覚と、勉強やら行事やらでとにかく忙しくしていた記憶と、ついでに言えば当時の恋情めいたものまで思い出してしまい、物語とはちょっと違うところで涙が出そうになったのは、やはり歳をとったということなのだろう。

 照れ隠しに、構成的な重箱の隅を敢えてつついて終わろうと思う。
 本来の『サヨコ』の正体がすぐにわかってしまうのだが、これはもっと後々まで引きずっていった方が良かったのではないか、と思う。逆に秋に恋する美香子はもっと前から登場していれば、と。
 それと、『サヨコ』や『彼ら』については、最後までほとんど解明されていない点も少し気になる。あくまで“ちょっとホラーチックな青春群像”という立ち位置なのだろうし、理路整然とした真相などは望むべくもないかもしれないが、もう少し描いて欲しかった、ように思う。

六番目の小夜子(新潮文庫)

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