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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

新海誠『小説 君の名は。』の感想

 映画の公開に先立ち、読んでみることにした。新海誠の映画は恐らく全て観ているが、特にファンというわけでもない、と自分では思っている(けれど公開初日に見に行こうとしているのは、やはりファンを自称すべきだろうか)。
 ともあれ、以前から『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』と監督作品の小説を自ら手掛けている新海監督だが、それをしっかりと読むのは初めてである。

  以下、まずはあらすじから。

 東京都心で暮らす立花瀧は、ある朝、違和感とともに目覚める。山と湖が間近に迫った町で、瀧は三葉という少女として目覚めたのだ。混乱とともに里の1日を過ごす瀧。
 湖に臨む糸守という田舎町で暮らす宮水三葉は、ある朝、違和感とともに目覚める。東京のど真ん中で、三葉は瀧という男子高校生として目覚めたのだ。困惑しながらも、学校、放課後、バイトと、三葉は都会の高校生生活を謳歌する。
 瀧と三葉。互いが書き残した記録から、眠ることによって不定期に“入れ替わって”しまうことに気付いた2人は、ルールを定めて都市と田舎の入れ替わり生活を続ける。建築に興味を持ち、カフェ巡りやイタリアンレストランでバイトの日々を送る瀧。巫女の家系に生まれ、祖母や妹と神事を行い、家を出て政治の世界に行った父との間に確執がある三葉。伝言文で罵声を浴びせ合いながらの奇妙な交代生活の日々は、それでも2人の心を浮き立たせながら過ぎていく。
 しかし、その日々はふとしたことから終わりを迎える。ティアマト彗星。1200年ぶりに地球を訪れる彗星が、2人を分かつ。時間も空間も隔たった処から、瀧は三葉を探す。すれ違っても、互いを忘れてしまっても。それは、断ち切るには余りに強い結びつきだった。

 “離れ離れながらも想いあうふたり”という現象は、初期の『ほしのこえ』から一貫した新海作品のテーマだと私は考えている。今作でもそれは踏襲されているのだが、もう1点、ここで付け加えられたのは、“都市と田舎”という要素ではないかと思う。
 新海作品の魅力といえば描き出される風景の美しさだが、その中には自然美もあるし構造物の美もあった。それを更に突き詰め、東京在住の瀧と、湖のほとりの糸守町に住む三葉という人物にそれぞれを代表させたのではないだろうか。その上で、両者の人格が入れ替わり、自然の美しさと都市の美しさを、それぞれ「発見」するという構造になっているのだと思う。
 読みながら、三葉は巫女でもあるし、東京に対してあまり良い印象を持たないのではないかと思ったが、以下のような部分からすると、むしろ逆のようである。

それは想像していたよりも――(中略)――、テレビや映画で見るよりもずっとうるわしい、日本でいちばん大きな街の景色だった。(p.52)

 一方の瀧も、三葉になって祖母や妹と過ごす日々と糸守町に、それなりの愛着を感じて過ごしているように読めた。
 そんな風に、瀧の肉体に入った三葉の視点で、三葉の肉体に入った瀧の視点で、東京(都市)と糸守(田舎)のそれぞれの美しさが描かれている。彼らが言葉で表現したその光景が、映画ではどう表現されているか、楽しみである。

 視点の話をするならば、2人の視点が溶け合う描き方にも触れるべきだろう。自然や都市の美しさや話の構成などは実のところ映画でも同じことで、小説固有の魅力とは言えない。しかし、この視点の描き方については小説ならではのポイントだろう。
 この小説は、瀧と三葉、それぞれの一人称的な視点で描かれている。2人の視点は目まぐるしく転換し、時には1行ごとに入れ替わりもする。そうして描かれる光景や心理描写、視点が交錯したり混淆したりすることで生まれる臨場感に、特に後半の疾走感あふれる展開も相まって引き込まれる。
 こうした描かれ方は、小説的というよりも演劇的と言えるかもしれない。しかし同時に、小説という形式にぎりぎり収まっているという気もする。

 ところで、湖のほとりにある糸守町の、モデルになった場所などはあるのだろうか。重箱の隅を好んでつつく私なので、やはり気になった。
 ちなみに、糸守町の面々のサイドストーリーを描いた作品も出ている。著者は新海氏ではないが、映画の制作に携わっていた方によるもののようなので、書かれた情報はオフィシャルな情報と言っていいだろう。いずれ読みたいと思う。

 とりあえず、本作の情報だけから考えてみる。新海氏の出身が長野県なので、巫女も登場することだし諏訪湖のあたりかと思いつつ読んでいたのだが、作中の記載によれば岐阜県の飛騨高山のあたりのようである。
 ただ、岐阜県内の湖から糸守町を特定するのは今のところ私には難しい。また、小道具として登場する組紐については、三重県の伊賀のあたりが有名ということしか分からなかった。
 映画を観て、他にヒントがあればそれを元に考えてみようと思う。

 

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