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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

村山由佳『天使の卵 エンジェルス・エッグ』の感想

小説 日本近現代文学


(2004年5月読了)

 GWの旅行中に読む。作者の出世作といっていい小説だろう。村山由佳は、集英社の『週刊少年ジャンプ』主催による「少年ジャンプ小説・ノンフィクション大賞」の第1回で佳作を取ってデビューし、そこから小説家として評価されていったという、割と珍しい経歴を持っているが、有名になったのは、この『天使の卵』での「小説すばる新人賞」受賞によるところが大きい。
 作者のことはともかく、あらすじを書いておこう。

 心を病んだ父親は入院中、母親が飲み屋を営んで育ててくれた一本槍歩太(いっぽんやり・あゆた)は高校を卒業したばかり。絵を描いて暮らしていけたらと思い美大を志望しながらも、どれだけの人間が希望を叶えたかと臆病になり、普通の大学も受験したところ、その中途半端さが災いしてどこからも合格通知が来なかった浪人生である。
 予備校への入学手続きのために池袋への電車に乗っていた歩太は、その車内で、とある女性と運命的な出会いを果たす。後になって彼女が父の新しい主治医であることを知った歩太は、自分と友達以上恋人未満な関係にある元同級生、斉藤夏姫の実姉でもあるその女性医師――五堂春妃(ごどう・はるひ)に強烈に惹かれていく。
 歩太には、春妃が夏姫の姉であることも、かつて結婚していたことも、19歳と27歳という年齢差も気にならない。土方のバイトや予備校での勉強の傍ら、父の見舞いにかこつけて春妃に会う日々は続いていく。夏のある日、ついに歩太は想いを告白するが、春妃から語られたのは、かつての夫、五堂が自死したという過去だった。
 春妃は「人を好きになる気力はもうない」と言い、それきり2人の間に踏み込んだ話はなくなる。が、春妃の判断で仮退院した歩太の父が、ビルの屋上から身を投げしたことで、事態は一転する。己を責める春妃と寄り添う歩太。やがてそれは確かな恋情となり、2人の恋が始まる。
 猛勉強のかいもあり、歩太は東京芸大に受かり、春から春妃と一緒に暮らすことを決心する。しかし、僅かなすれ違いと不運により、その機会は永遠に失われた。春妃の部屋に残ったクロッキー帳を開くと、そこにはかつての春妃があふれていた。

 身も蓋もないことを書いてしまうが、「避妊くらいしろ」というのが読了後ほどなく到来した最初の感想だった。無粋きわまりないかもしれないが、現代の日本を舞台にしていて、しかも春妃が医師である以上、この点は物語への没入を阻害しているように思えてならない。あるいは、情愛の貴さを描いたのかもしれないが、感想が分かれるところだろうと思う。文庫版で作者自身が「全ての人には受け入れられない」というようなことを書いているが、この点について言っているのだろうか。
 また、文庫版では村上龍が解説を書いていて、そこでも若干触れられているが、やはり全体の構成や、近しい者の自死、精神医学(というか心理学)、年上の女性との恋などの要素、歩太の台詞にテレビドラマっぽい紋切り型な感じは受ける。
 とはいえ、紋切り型が必ずしも悪いとは思わない。映画化・ドラマ化へのハードルが低いことになるからである。実際、本作は映画化もドラマ化もされている。

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  ここまでどちらかというと批判的に書いてきたので、以下は美点を挙げたい。
 私は、やはり浪人している青年が抱え込むであろう、何とも宙ぶらりんな心情を、女性が描いたところに面白さを感じる。自分が何者になるのか、ということは、大学生になった後、就職活動の際に改めて考えることだろうけれども、その大学にも入らないうちの悩みは、もっと曖昧で先が見えないものだろうと思う。ジャンルとしては恋愛小説に分類される作品だろうとは思いつつも、そうした漠然とした将来を思って立ち尽くす浪人生を描いた青春小説と分類するのも、可能なことではないかと思う。

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