何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

矢口史靖『ウォーターボーイズ』の感想


(2004年11月読了)

 当時、休みの日の深夜のモスバーガーで一気読みした本その2である。その頃、映画『スウィングガールズ』を観たので、矢口監督作品の小説版を読む気になった。
 ちなみに『スウィングガールズ』は観たが、こちらの映画は観ていない。優先順位は低いのだが、いつかレンタルして観ようかと思う。

ウォーターボーイズ [Blu-ray]

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 とりあえずは、あらすじを。

あらすじ

 唯野(ただの)高校水泳部は、在籍しているのが現在のところ部長の鈴木だけという超弱小部だった。その鈴木にしても実力はイマイチで、3年生最後の大会も惨敗してしまう。しかし、美人の佐久間恵先生が転任してきて水泳部顧問に着任すると、男子校の悲しさか、にわかに入部希望者が殺到する。
 ところが、佐久間がやりたいのが競泳ではなくシンンクロナイズドスイミングだということが判ると、希望者の多くは潮が引くように姿を消してしまう。逃げ遅れたのは、鈴木、元バスケ部で中途半端なことばかりしている佐藤、ガリガリな体型で肉体美に憧れる太田、ガリ勉で理屈の通らないことは許せない金沢、ちょっとフェミニンな雰囲気をもつ早乙女の5人だけ。
 本当にやるのかどうか、それすらおぼろげなまま、彼らは学園祭に向けてシンクロに取り組もうとする。が、そんなタイミングで佐久間先生の妊娠が発覚、産休に入ってしまい、指導者まで不在の状況となってしまう。
 男のシンクロなんて、という周囲の声に鈴木達も同調し、学園祭での発表は流れかけるが、プライドを刺激された5人は奮起、発表を決意する。しかし、教えてくれる人もおらず、意気込みだけでどうにかなるわけもなく、更にはとある事情から水を抜いてしまったプールの水道代まで請求され、文化祭のチケット前売りでしのごうとする始末。どうにか地元商店街のオカマバーのママ達から協賛を得ることに成功するが、演技の方は全く上手くいかず、アクシデントも重なって、体育教師の杉田からプールの使用を禁じられてしまう。
 失意のまま夏休みに入ると、鈴木は近隣にある桜木女子高のピーカン空手少女・木内静子と知り合う。学園祭でシンクロをやろうとしていることは秘密にしつつ、一緒に訪れた水族館で調教師の磯村によるイルカショーを見た鈴木は、磯村に頼み込み、諦めかけていた仲間たちに働きかけ、水族館での特訓を開始するのだった。
 シンクロの練習なのか雑用なのかよく分からない日々を過ごした彼らだが、気がつけばシンクロの実力はアップ。シンクロのことを木内に秘密にしている鈴木、告げられた早乙女の佐藤への思いといった波乱の種を含みながらも、ひょんなことからテレビで「男子高校生によるシンクロ」と報じられたことも手伝って、鈴木達は一気に有名になる。地域の期待が寄せられたことで晴れて学園祭の正式企画となり、部員も増え総勢28人となった部員たちの練習は、いっそう熱が入っていく。
 かくして水泳部は学園祭の前日を迎える。アクシデントにより、プールの使用が危ぶまれる事態となるが、桜木女子文化祭実行委員会の機転により発表の場を得、ついに演技が始まろうとする。観客の中に静子の姿を見つけた鈴木は戸惑うが、思い直しプールサイドに走る。高まるシンクロのテンションに、一切は昇華されていく。

感想

 ネットの評価でも散見したが、確かに「(『スウィングガールズ』と)だいたい同じ」な感じは受けた。停滞した高校生たちと、何かちょっと珍しい活動と、いい加減な指導者と、現金なその他大勢、そして淡い恋。リアリティには乏しいかもしれない。が、楽しいのには違いない。
 逆に『スウィングガールズ』との違いはどこだろう、と考えると、それは女子高生と男子高生の違い、ではないかと思う。『スウィングガールズ』が底抜けに明るい女の子たちの強かさが滲み出てくる物語であったのに対して、本作は男子たちの情けなさが前面に出てきているように思った。

スウィングガールズ【新装版】 (MF文庫ダ・ヴィンチ)
 

 これがこの年頃の男子と女子に普遍的な傾向なのか、小説も自分で手掛けた矢口監督の考え方によるものなのか、そもそも男と女の性差自体がそうなのか、あるいは単に私自身の見え方の問題なのかは分からない。ただ、どこか「どよーん」とした男子たちのひと夏の挑戦は、私にとっては『スウィングガールズ』よりも身近に感じられたのは確かである。特に、成功体験の乏しい鈴木と、理屈が優先されるタイプの金沢は、高校生の頃の私に、けっこう似ているような気がする。

 矢口監督が自作のノベライズを自分で行うのは半ば恒例になっているようで、『スウィングガールズ』もそうだし、全く観ていないのだがその後の作品である『ハッピーフライト』や『ロボジー』でも筆者としてクレジットされている。

ハッピーフライト (MF文庫ダ・ヴィンチ)

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小説 ロボジー (集英社文庫)

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 上記2冊は未確認だが、『スウィングガールズ』と本作では、文章に加えて挿絵も矢口監督が描いて(というか、実際の絵コンテを適宜流用しているのか)おり、そちらもなかなか達者である。キャラクターが適度に漫画的に描かれており、その簡略な描き方にもかかわらず、ヒロインたちはちゃんと可憐なところがすごいと思う。こんな感じで本格的に漫画を描いてくれないだろうか、というのは叶わぬ要望だろうから、ここに書き残すだけにしておこう。

 こういう作品ばかりでも物足りなくなると思うが、楽に楽しめる話はそれはそれで貴重だとも思う。夏によくあう。

ウォーターボーイズ (角川文庫)

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