何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

椎名誠『ジョン万作の逃亡』の感想

幻想的でアヴァンギャルドなもの、私小説風なものと系統が違うものが同居していて不思議な印象の本になっている。しかし、どうも夫婦の間のすれ違い的なテーマが執筆当時の作者の胸中にはあったようで、5作中2作はそういう作品になっている。

フランソワーズ・サガン『悲しみよ こんにちは』の感想

初読時は“アンヌの有する完璧さに対する、若さゆえの反逆”というように読んだのだが、駆け足で再読してみるとかなり印象が違った。それは初読時の訳が新潮文庫の旧版に当たる朝吹登水子で、いま手元にあるのが新潮の新版である河野万里子の訳という差異だけ…

恩田陸『六番目の小夜子』の感想

学校を舞台にした都市伝説&民俗学テイストな青春群像、というのが端的なまとめだろうか。どの登場人物もそれなりの味があり、作者の当初のイメージ通り、確かにNHKの少年少女向けドラマにはもってこいの原作と言えるだろう。

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー『貧しき人びと』の感想

何で知ったのか忘れてしまったのだが、ドストエフスキー→二葉亭四迷/北村透谷→埴谷雄高→安部公房という影響の系譜があるという。他にもドストエフスキーが近現代文学に与えた影響は甚大なようだし。ともかくその影響の発端を体験すべく読んでみる。

荻原浩『オロロ畑でつかまえて』の感想

マイナーかもしれないが面白かった。サクサク読めるユーモア小説という感じで、爆笑した場面も2つ3つあり。『吉里吉里人』を書いた井上ひさしが激賞するのも分かる東北弁の軽妙さ、というところだろうか。

コナン・ドイル『緋色の研究』の感想

初のホームズ原作は、順当にその第1作にした。世に存在するシャーロック・ホームズに関するワトスン博士の回顧録全60篇は、ここから始まったことになる。シャーロッキアンへの道程もここから始めるのが妥当だろう。

伊集院静『乳房』の感想

(2004年2月読了) 直木賞受賞作の表題作を含む短編集。他に収録作は「くらげ」「残塁」「桃の宵橋」「クレープ」。まずはそれぞれあらすじを。 あらすじ 「くらげ」。大学時代の友人である佐藤幸之助の妹、公子に会いに、「私」(是水)は静岡にある公子の…

斉藤栄『星の上の殺人』の感想

表題作が氏のデビュー作であるという。他の作品もそこそこに面白いのだが、いかんせん時代の流れでいささか陳腐になっている中、この表題作はちょっと印象的である。解説にもあったが、能舞台にも通じるような極限の箱庭化と抽象化がなされている。

太宰治『晩年』の感想

処女作。綿矢りさの影響(2003年下期の芥川賞受賞者で太宰を愛読していたとか)も少しあって読んでみることに。短編集で内容は様々である。全15編も収録されているが、なるべく簡単に概要を書いてみる。

村上春樹『羊をめぐる冒険 下』の感想

(2004年1月読了) 昨日に引き続き下巻である。まずはあらすじを。 あらすじ 札幌に着いた「僕」とガール・フレンド。ガール・フレンドの希望でドルフィンホテル――いるかホテルに落ち着いた2人は、「羊」を探すべく行動を開始する。が、成果ははかばかしくな…

村上春樹『羊をめぐる冒険 上』の感想

(2004年1月読了) 『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く三部作のラストとして書かれた小説である。文庫版の上下巻で読んだ。ただ、これが完結編というわけではなく、この後の『ダンス・ダンス・ダンス』で完結とされている。商業作家となった作者…

島田荘司『占星術殺人事件』の感想

冒頭、殺された梅沢平吉による、占星術(というよりも錬金術、ネオプラトニズムだろうか)というモチーフを駆使しての犯罪叙述がなかなかに面白い。日本全国を錬金術的に解釈した上で犯行現場が特定されたりと、何やら荒俣宏的な展開も魅力的だ。

夏目漱石『文鳥・夢十夜・永日小品』の感想

(2004年1月読了) 漱石の文芸書(論文などではないもの)はこれで全て読んだことになる(一部2002年以前に読んだものがある)。 表題の他、職業作家になり所用で上洛した際の第一印象を描いた「京に着ける夕」、ロンドン留学中の愚痴めいた内容を手紙文で綴…

有栖川有栖『月光ゲーム』の感想

(2004年1月読了) 現代日本のミステリをもっと読もうと思い購入。『カーテン』とは対照的な青春群像プラス犯人探しである。まずはあらすじを。 あらすじ 京都にある英都大学に入学した有栖川有栖は、EMCこと推理小説研究会に入会する。四回生で部長の江神二…

アガサ・クリスティ『カーテン―ポアロ最後の事件』の感想

(2004年1月読了) 海外の小説にもそろそろ手を出そうと思いポアロものから行くことにする。父がかなりミステリ好きで、エラリー・クイーンやアガサ・クリスティのものは実家にもそこそこあって、この小説はそんな父が「ぜひ読め」と言ってきたものである。 …

村上春樹『新版・象工場のハッピーエンド』の感想

村上春樹の随筆か創作か詩(あるいはその複数にまたがった文章)と安西水丸氏の絵を混淆させた本である。「新版」と銘打たれているのは、1983年にCBS・ソニー出版から出た旧版に、「にしんの話」と安西氏の新規画稿を加えたものだかららしい。

夏目漱石『硝子戸の中』の感想

漱石の随筆その2である。先日の『思い出す事など 他七編』(当該記事)が修善寺で自身が経験した危篤状態のことや知人の死を中心にまとめられていたのに対し、こちらはそれから4年ほど経った頃に発表された身辺記となっている。文体も、『思い出す…』が「余…

法月綸太郎『密閉教室』の感想

(2003年11月読了) 現代日本のミステリを読もうと思って手に取った。法月綸太郎のデビュー作である。まずはあらすじ。 あらすじ 湖山北高校の3年生の教室の1つ、7R(ルーム)は、ある朝、不可解な現象に見舞われる。一番に登校してきた梶川笙子がドアを開け…

花村萬月『あとひき萬月辞典』の感想

それは置いておいて変な本である。「辞典」とある通り、「匂い」とか「音楽」といった言葉ごとに章が区切られ、そこに1つ以上のエッセイなり掌編なりが置かれている。もっと大部になる予定だったようだが、発表先などと折り合いがつかず、全9章というこじん…

夏目漱石『道草』の感想

大学教師の夫とクールな妻。それと金を腐心してもらいに来る老いた養父母に兄や姉。こうした構図は、『吾輩は猫である』を執筆していた頃の漱石の境遇そのままであるとの指摘がある。それまでは自分と似て非なる人物たちを描き続けてきた作者が、最後に完成…

新井満『ヴェクサシオン』の感想

「千の風になって」で有名になった新井満氏による小説である。読んだ当時、既に同曲は発表されていたようだが、私は単に「尋ね人の時間」で芥川賞を受賞した人の作品として読んだ(ちなみに「尋ね人…」は未読である)ように記憶している。表題作と、姉妹編と…

夏目漱石『行人』の感想

『行人』は、あまりメジャーでないように感じるが、『彼岸過迄』(当該記事)に続き、一般的に言われる後期3部作の2作目とされているようだ(最後の1作は有名な『こころ』である)。

吉行淳之介『原色の街・驟雨』の感想

吉行淳之介を知ったのは『子供の領分』という本によってである。ドビュッシーの曲からタイトルを拝借したこの作品は2003年よりも前に読んだ本の1つだが、どうも手に入れた時のことを憶えていない。いつの間にか本棚に刺さっていた。恐らく大学時代に入り浸っ…

鈴木光司『らせん』の感想

監察医の安藤は、海での不注意で幼い息子を亡くし、別居中の妻からなじられ続け、ついに離婚を言い渡される。そんな彼が解剖することになったのは、不可解な死を迎えた学生時代の友人、高山竜司。死因を心臓の冠動脈の閉塞による心不全とした安藤だったが、…

夏目漱石『思い出す事など 他七篇』の感想

随筆なので、収録されたタイトルを列挙して筋に代えようと思う。以下、収録作。 「思い出す事など」。「長谷川君と余」。「子規の画」。「ケーベル先生」。「ケーベル先生の告別」。「戦争から来た行違い」。「変な音」。「三山居士」。 このうち、漱石が修…

鈴木光司『リング』の感想

数年前に相当話題になったものを、百円で購入したので今さら(2003年)読む。自分が読んだのは横尾忠則の装丁によるものであるが、いまAmazonを検索してもその表紙は出てこない。当初は「ごちゃごちゃして変な装丁だ」と思ったが、今になってみれば、不思議…

川上弘美『神様』の感想

パソコン通信上で募集された「パスカル短編文学新人賞」に応じて受賞した表題作を筆頭に、『マリ・クレール』誌(フランスのファッション雑誌『Marie Claire』の日本版を、当時中央公論社が出していた模様)掲載の短編も入れて計9編を収録した本である。

夏目漱石『坑夫』の感想

漱石の小説の中でも、あまり話題になることのない作品である。書かれた時期で言えば、『虞美人草』と『三四郎』の間。島崎藤村が書いていた『春』が新聞連載に間に合わず、“つなぎ”として漱石が書いた、という経緯があるようだ。

赤川次郎『幽霊列車』の感想

テレビで『三毛猫ホームズ』シリーズを観た小学生の頃か、あるいは高校の演劇祭で他のクラスが『夢から覚めた夢』を演ったというのが、私にとって最初の赤川体験ということになると思うのだが、ちゃんと本で読んだのは、実のところこれが初めてだと思う。

夏目漱石『二百十日・野分』の感想

雅なタイトルの比較的初期の作品2編を収録した本である。かつては岩波文庫でも同様に構成された本があったようだが、そちらは現在は絶版のようで、自分が入手し読んだのは新潮文庫版である。

プライバシーポリシー /問い合わせ