何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

斉藤栄『星の上の殺人』の感想


(2004年2月読了)

 なぜ手に取ったのかは忘れてしまった。斉藤栄というミステリ作家(時代的に推理作家と表現すべきだろうか)を知ったのも、この本が初めてである。例によってAmazonの書影がないが(2018年7月、書影が登録されているのを確認)、しかし調べたら100冊以上の作品を書いているようだし、マイナーとは言い難いかもしれない。思うに全盛期が昭和中期で、ネットで色々と情報発信する年代とはファンの層が違うということではないだろうか。
 それはさておき、表題作を筆頭としたコント・ミステリーが12編、他に短編を3つ収録している。コント・ミステリは題名のみとして、短編は概要を少し書いておこう。

概要

コント・ミステリー

星の上の殺人/検死/1三歩打ちのナゾ/物価殺人/のぞき堕落天使/憎い先生(やつ)が消えた/貸バラ協会/わかれの歌/美女に黒い手袋を/宝石(いし)の女/鞆の浦で拾った女

短編

 「臭教」。突然、ゴミが反乱と氾濫を起こしたとある市。その異常事態に臭教(においきょう)という新興宗教が幅を利かせ始める。新聞記者の芦垣と市役所職員の妻である英子はそれぞれ真実に近づいていく。

 「黒い海の花」麻薬取締官の「私」こと保田と、新たに相棒となった久宗京子は横浜駅近くの自動車学校を張り込む。そこが麻薬取引の現場と踏んで。危険な捜査と京子にまつわるどんでん返し。

 「国際秘密警察」。国際秘密警察官極東機関員、上里五郎は、本部からの指令あるいは自分の意思で危険な事件に介入する。ゼンギル共和国大統領の子供の護衛、埠頭で起きた大量殺人、大阪で会った死を宿す女、皇居に墜落したS国の小型機、名古屋の秘密クラブで起きた要人の不審死…。女に弱い五郎だが、最後はどうにか帳尻を合わせる。

感想

 表題作が氏のデビュー作であるという。他の作品もそこそこに面白いのだが、いかんせん時代の流れでいささか陳腐になっている中、この表題作はちょっと印象的である。解説にもあったが、能舞台にも通じるような極限の箱庭化と抽象化がなされている。ミステリというとちょっと違うかもしれないが、これはある意味アンチ・ミステリとして興味深い。
 他の作品については、現在読んでみると確かに色々と“解りやすい”ものばかりではあるが、娯楽作品としてはこれでいいようにも思えたり。『宝石』とか『面白倶楽部』といった、昭和中ごろあたりの娯楽小説誌の味を味わってみるには格好と言えるかもしれない。
 ところで、作者の代表作を調べてみたところ、タロット日美子シリーズというのがあることを知った。

タロット日美子の恐怖推理 (双葉文庫)

タロット日美子の恐怖推理 (双葉文庫)

 

 主人公に女性を配置し、モチーフはタロット。一周回って今風といってもいいかもしれない。どこかで見かけたら、一読してみたい。

星の上の殺人 (講談社文庫)

星の上の殺人 (講談社文庫)

 

 

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