何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

鈴木光司『リング』の感想


(2003年11月読了)

 数年前に相当話題になったものを、古書店にて100円で購入したので今さら(2003年)読む。自分が読んだのは横尾忠則氏の装丁によるものであるが、いまAmazonを検索してもその表紙は出てこない。
 当初は「ごちゃごちゃして変な装丁だ」と思ったが、今になってみれば、不思議とあの装丁でないとしっくりした感じがしないから不思議である。コラージュのようにして作られたあの装丁は、貞子の有り得ない子宮を表していたのだろう。
 以下、あらすじを。

あらすじ

 週刊誌記者の浅川和行は、義理の姪に当たる女子高生、大石智子の不審な死と時を同じくして死んだ少年少女のことを知る。記者の嗅覚とオカルト的な興味からその謎を追究した彼は、南箱根パシフィックランドの宿泊施設、ビラ・ロックキャビンB-4号棟で1本のビデオテープを観てしまう。
 不可解な映像の連続。しかし、映像の末尾に残された「この映像を見た者は、一週間後のこの時間に死ぬ運命にある」という白い文字は嘘ではないことを、浅川は理解する。

 死を回避するための方法は、重ね録りされてしまった映像によって消えてしまっており、知ることができない。焦燥感にかられた浅川は、友人の高山竜司に助けを求める。
 医学部を出て哲学部に入り直した豪傑・竜司と共に、会社の情報も使って浅川は死から逃れる方法を探す。妻と幼い娘までがビデオを観てしまった浅川の焦燥は更に強まっていく。

 やがて明らかになったのは、強力な予知・念写能力を持ちながらも非業の死を遂げた女、山村貞子の存在だった。鎌倉、大島と手がかりを求めながら、2人は真相“らしきもの”に近づいていく。浅川の“締め切り時間”は、すぐそこまで迫っていた。

感想

 初めて『リング』なる物語に触れたのは、確か『少年マガジン』に掲載された漫画版だったかと思う。一挙掲載か短期集中連載か忘れてしまったが、かなりぞくぞくしながら読んだ覚えがある。 

リング (講談社漫画文庫)

リング (講談社漫画文庫)

 

 この漫画版は原作をかなり忠実になぞっているので、原作である小説を読んでも、ストーリーとして驚いた部分はあまりなかった。ただ、漫画表現よりも文字情報だけの方が、不気味さはあるように思う。
 一方で、不気味ではあるのだが、意外と文章がからっとしている(貞子に対するモノローグとして「……あんた、とんでもないものを産み落してくれたなあ」など)ので、ホラーらしくはないとも思われた。

 文章的なことをもう2点ほど。まず、三人称で語られている小説なのだが、それにしても会ったばかりの人物の気持ちをいきなり描写するのは、さすがに違和感があった。以下のような具合である(貞子の手がかりを求めて、浅川たちがとある場所に資料を見せて欲しいと頼んだ相手の反応である)。

「はあ、もちろん、ファイルは保存してあります。でも、インチキなものも多くて、それになにしろ数が数なものですから」
 哲明はもう一度あのファイルを調べると思うとぞっとした。十数人の弟子たちが数ヶ月かかってやっと整理し終わるほどのものだ。(ハードカバー版p.176)

 なんというか、浅川や竜司だけでなく色々な人物の“気持ち”が描写されてしまうので、誰の視点で描かれているのか混乱してしまうのである。

 もう1点は、文頭に「さて、」が多いことである。論説文ならいいと思うのだが、小説の地の文で「さて、」が頻発するのは違和感があった。
 まぁ、2点とも主観的なものであるが。続編などではどうなっているだろうか。

 内容的な面では、やはり竜司の存在が大きいと感じる。
 登場した途端、かつて浅川が取材した時、将来の夢として「丘の上から人類の滅亡する光景を見物しながら大地に大穴を掘り、その穴の中に何度も何度も射精すること」と語ったエピソードが付されている彼は、医学と哲学を修めたインテリながら、文字通り変態的な人物として登場する。
 協力を引き受け、浅川と同じビデオを観るところはいかにも破滅型の人間らしいが、クライマックスには挫けそうな浅川に檄を飛ばす熱量を持っている。達観してワルぶっているものの、本当のところは人間賛歌を体現している人物だと思う。
 独身で学者である彼がいて、妻子持ちで雑誌記者の浅川と対比されるからこそ、家族を守りたいという浅川の立場も、貞子とその母を追い詰めたマスコミという構図も強調されるように思えるのだ。

 周知のように、この作品は『らせん』『ループ』と続く3部作の1作目に当たる。聞くところによると続編はがらりと世界観が変わっていくという。それが私にとって面白いか否か、楽しみにしつつ読む機会を待とうと思う。

 

プライバシーポリシー /問い合わせ