何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

道尾秀介『背の眼』の感想


(2015年6月読了)

 道尾秀介のデビュー作。処女作としては、これ以前にこの本の習作とでも言えそうな短編を自身のウェブサイトに掲載していたそうだ(軽く調べた限りでは、今そのウェブサイトは見つからない。閉鎖されたのだろう)。

 ホラーとミステリ(推理小説)との融合というと、先に三津田信三忌館 ホラー作家の棲む家 』というのを読んだのだが(そのうち過去の感想として記事にすると思う)、『忌館』がいわゆる“館もの”だとすれば、こちらは“ムラもの”といった感じだろうか。

あらすじ

 福島県の山奥、白峠という地域周辺で散発する児童失踪事件と、近隣で撮影された心霊写真&後日の被写体の自殺。偶然か、何者かの意思が存在するのか。もし存在するとすれば、それは生身の人間によるものか、あるいはまごうことなく霊によるものなのか。

  この謎に、売れないホラー作家の道尾(著者と同名というのは、ミステリではお作法の1つなのかもしれない)と、久方ぶりに再会した大学時代の友人で霊現象探究家の真備、その助手をアルバイトでやっている美人の北見凛が挑む――。

感想

 あらすじを追うと以上のようになるだろうか。道尾氏(作者の方)の作品は初めて読んだが、達者だ。面白く最後まで読んだ。
 これは映画や漫画になりそうだな、と思っていたら、本当に映画化(失礼、正確にはテレビドラマ化だった)されて漫画化もされていた。 

背の眼 (1) (バーズコミックス)

背の眼 (1) (バーズコミックス)

 

 「背の眼」という語感が、自分には『ゲゲゲの鬼太郎』なんかに出てきた妖怪“手の目”を連想させ、京極夏彦っぽい妖怪を絡めたミステリかと思われたが、実際には妖怪というよりは心霊現象がモチーフと言えるだろう。
 一方で真備の容姿や衒学的な話には一抹の京極っぽさは感じるが。

 物語の拠点になるのは「あきよし荘」という温泉宿(というか民宿)なのだが、この宿の雰囲気がなかなか良い。閑古鳥が啼くにまかせ、宿の主人と道尾たちが一緒に酒を飲んで語り合うシーンの寛いだ感じは、後半で明らかになる諸々(そういえば、この作品の真相に私はヒッチコック某作品 の匂いを嗅いだ)が陰惨なだけに、読後も心に残った。
 平穏と惨劇の落差というのを如何に巧みに出現させるか、というのが、ミステリを書く作者の腕の一つの見せ所なのだろう。

背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)

背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

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