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ひびき遊『ガールズ&パンツァー3』の感想


(2019年3月読了)

 引き続き、ライトノベルガールズ&パンツァー』の3巻について書く。これにて最終巻となる。例によって概要を示し、それから感想を綴ろう。

概要

 必勝を祈願した“あんこうチーム”ご飯会の直後。早々と後片付けと身支度を済ませて寝床に入った沙織は、チームメイトたちのことを思いながら眠りに落ちていった。

 その少し前。寮に戻る途中だった華は、帰り道に一緒になった優花里を部屋に誘う。珍しく一対一で語り合う砲手と装填手。語らいの中、華は砲手としての未熟を自ら悟る。長砲身で射撃を「当てる」感覚を養ってもらおうと優花里が提案してきたのは、『World of Panzer』――戦車戦を疑似体験できるオンラインゲームだった。
 歴女チーム、ゲーマーチーム、一年生チームもログインして、華にとって初めての仮想空間での戦車戦が始まった。戸惑いながらも、優花里と二人三脚による戦車の操縦を覚えていく華。
 一戦終えて一息ついた時、華と優花里にマッチングをリクエストしてくる2人のユーザーが居た。10対10の戦車戦が繰り広げられる中、挑戦者の1人、イギリスのレア戦車・ブラックプリンスを駆る謎のユーザーは、会話機能で格言を表示させながら撃破を重ねる。4対2に追い込まれる華たち。二転三転する戦いの末、華の砲撃はついにブラックプリンスを捉えた。そして彼女は、自らに欠けていたものを悟るのだった。

 同時刻。冷泉麻子は、『World of Panzer』の画面から目を離した。眠気が来ない。
 彼女が居るのは大洗女子学園内の合宿施設。風紀委員で何かと麻子を目の敵にするソド子――園みどり子が、朝に弱い麻子を思って手配してくれ、風紀委員3人揃って付き添いまでしてくれているのだ。
 眠れない麻子のため、ソド子は夜のジョギングを提案するが、それも効果は今ひとつ。その時、ふと聞こえた怪音に麻子は怯える。しかし、それはバレー部チームが暗闇で練習をする音だった。無断で居残っていたことにソド子は怒る。
 うまくいかない麻子の眠気喚起だが、ソド子は諦めない。彼女もまた、麻子が決勝戦の鍵を握ると理解していた。その責任感の強さは、麻子に自らの亡母――喧嘩別れとなってしまった母を思い出させるのだった。
 またも異音が聞こえ、2人は怯えるが、それは自動車部チームが自分たちの乗る戦車・ポルシェティーガーの手入れをする音だった。やはり無断で居残っていた自動車部にソド子の怒声が飛ぶ。
 疲れ切ったソド子を連れ、麻子は合宿施設に戻った。眠気で支離滅裂なことを言うソド子に、麻子は自分の進路希望について話す。ソド子もまた本心を語り、優勝のあかつきには麻子の総計3桁におよぶ遅刻履歴を消去すると約束した。
 翌朝、風紀委員3人がかりで麻子を起こそうとするが、なかなか目が覚めない。彼女を覚醒させたのは、たった1人の身内である“おばぁ”の、電話での怒鳴り声だった。

 午前5時半。時間ぴったりに沙織は集合場所に着いた。仲間たちも揃っている。隊長のみほは、既に臨戦態勢に入っていた。港から戦車ごと鉄道に揺られ、沙織達は決戦の地、富士山のふもとにある試合会場に到着した。
 試合開始の直前、黒森峰の副隊長・逸見エリカが、みほを挑発する。8対20。大洗女子の圧倒的な数的不利のもと、決勝戦の火ぶたは切って落とされた。
 ほどなく黒森峰の激烈な火力にさらされ、大洗女子は浮き足立つ。みほは「もくもく作戦」「パラリラ作戦」「おちょくり作戦」を矢継ぎ早に指示し、これに対処した。
 大洗女子が川を横断しようとした時、自らのトラウマを抉る事態が発生し、みほは逡巡する。しかし、沙織は、チームのメンバーは彼女の背中を押した。仲間は見捨てない。それが、みほと大洗女子が見出した“戦車道”だった。

 試合は市街戦へと移った。姿を現した黒森峰の超重戦車・マウスに、大洗女子の戦車は相次いで擱座していく。
 しかし、そのマウスすらも陽動と見抜いたみほは、フラッグ車同士の決戦を企図。市街地の中心に急行し、敵フラッグ車であるティーガーⅠを発見した。“あんこうチーム”のⅣ号戦車と、黒森峰の隊長にしてみほの姉、西住まほ達の駆るティーガーⅠとの一騎打ちが始まる。
 自らの実力を上回る者を相手に、みほの心は折れかける。しかし、仲間たちの声が支える。みほの指揮、沙織の地形判断、麻子の操縦技術、優花里の装填、華の砲撃。全てが噛み合ったゼロ距離射撃は、ついにティーガーⅠに白旗を挙げさせた。

 それぞれのやり方で、大洗女子の面々は勝利を喜んだ。ぼろぼろになったⅣ号線車に、“あんこうチーム”の面々は感謝の意を表した。そして、姉は手を差しだし、妹は応じた。
 表彰式。かつて自分たちを訓練してくれた戦車道の教官で、この日は審判をしていた蝶野から、みほは優勝旗を受け取る。祝福に沸く観客席には、これまで戦った各校の隊長達の姿があった。そして、昨年の決勝戦で、水没した戦車からみほが助け出した当の本人からも、感謝の意が明かされた。

 大洗女子は大洗町へ凱旋する。大勢の見物人の中、イケメンが居ないか期待する沙織だったが、仮設スクリーンに流れで映し出された自分達の「あんこう踊り」に慌てふためく。イケメンを射止めるため、来年も優勝しようと心に誓う沙織だった。

感想

 結末は、アニメーションの内容と大筋は同じである。まずは爽やかで良い幕切れだと言えよう。伏せられていた事柄はほぼ明かされ、少女たちはそれぞれ少しずつ成長し、最もそれが望まれたみほもまた、自分の戦車道を見出し、姉と和解した(そもそも姉のまほは、言葉が足らなかっただけで最初から妹を応援していたようではあるが)。
 前述の通り、結末はアニメとほぼ同じではあるが、細部について言えば、最後の決戦のシーンを含め、幾つかの点がアニメ版とは異なる。アニメの要素を再構築・アレンジし、沙織の視点で描いていると言えば大体を説明できるだろうか。以下、作中の時系列に沿う形で触れてみよう。

 まず、最たる違いとして、大きな追加となった場面が2つある。試合前夜を華と麻子それぞれの視点で描いた部分である。と言うよりも、この3巻の実に3分の2の紙幅が、ここに費やされている。2巻でも少し触れたが、2巻までの予定だったのが急遽3巻までとなり、内容を嵩増しする必要にかられてのことだろう。
 とはいえ、それらのエピソードは上げ底などとは言えない。独自の内容ということで、それぞれ少し細かく述べる。

 まずは、華道の家に生まれた華が語り手となるシーン。ふとしたことから優花里を自宅に招き、砲手としての成長を見込んでネットでの戦車ゲームをプレイすることになる、という展開が描かれている。いささか強引に感じられたものの、時宜にかなったものではないかとは思った。

 この戦車ゲームのモデルとなった「WOT」というネットゲーム(あとがきに記載されている)を私は遊んだことはないが、ベラルーシ発のゲームで、2012年3月に日本語に対応し、日本のユーザーを増やしていったという。『ガルパン』の本放送が2012年秋だから、タイミングとしては呼応したように思われる。同ゲームの日本語対応に、あるいは『ガルパン』のプロデューサーあたりが関係していても驚かない。

 そのあたりはともかく、本文の内容に戻ろう。
 華を語り手に、ゲーム中の着弾の閃光を種々の花に例えるところは、いささか安直だが楽しかった。難敵となるブラックプリンスを操作しているのは、いうまでも無く第1巻に登場した聖グロリアーナの隊長・ダージリンなのだが、ここで不完全ながらトーナメントの都合で果たされなかった大洗女子と聖グロリアーナの再戦(と、今度は大洗女子の勝利)を描いている点も面白い。

 麻子の方は、眠れない彼女と、それに付き添う風紀委員のソド子――園みどり子との交友を主軸に、これまであまり描かれてこなかった風紀委員、バレー部、自動車部といった各チームについて情報を補完していると言えるだろう。華の方に比べ、展開に起伏は乏しいように思ったが、寡黙な麻子の友人や家族への思いが記されており、ファンには喜ばれる追加要素だったのではないか。

 以上のような長い決勝前夜を経て、決勝戦へと話は進むわけだが、その大筋はアニメと同じであるため、大半については略し、差異が気になったところのみ記そう。
 最後の「ゼロ距離射撃」だが、みほもそう明言しているものの、現実にはそうした呼称の射撃法が存在するのか否か、いまだ議論の途中のようである。
 説明が煩雑なので省くが(気になった方は検索されるとよい)、現実において作中のような超至近距離で砲撃することなどそうないだろうし、戦術の教科書にも記載はないだろうと思う。従って明確な定義があるか疑わしい。ただ、格好はよいので、創作上の「ゼロ距離射撃」は残り続けるだろうとも思う。

 みほが転校することとなった、前大会決勝での事件については、その事件の当事者について大幅な設定変更が行われている。黒森峰の副隊長であるエリカと、みほとの関係性について、「そういう風にするのか」と膝を打った次第である。みほに対するエリカの愛憎半ばするような感情の答えとして、このライトノベル版の設定は説得力があると思う。
 最後の場面に再び「あんこう踊り」が出てくるのも、本ラノベのオリジナルである。カバー袖のコメントによれば、作者のひびき遊氏は「関西在住の玩具マニア」だというが、いわゆるオチをつけたかったのかもしれない、と可笑しく感じた。

 さて、せっかくの爽やかなラストに水を差すことになって恐縮だが、以下は読んでいて用字用語的に気になった箇所である。無粋極まりないが、併せて記述する。
 私が読んだのは初版1刷なので致し方ないところはあると思う(一般的に言って、初版での誤字脱字の類は、普通の人が考えるよりも多いだろう)ものの、前2巻ではあまり目立たなかったことを考えると、この3巻は刊行計画も逼迫していたものらしい。

 まず、p.40の13行目の、剣山について「お花を刺す」という表現。「活ける」か、少なくとも「挿す」などではないだろうか。この場面の語り手は華道を深く修めている華なので、余計に気になった。
 次に、p.62の10行目。「わたくしは隣で静かに頷きました」の末尾に「。」が無い。
 p.97の8行目。「およそあと五分でお風呂には入れます」は「お風呂に入れます」であろう。
 p.196の12行目と15、16行目。自動車部によるチームを「レオぽんチーム」と表現しているが、正しくは「レオポンチーム」だろう。

 最後は蛇足となった感もあるが、これで全3巻について感じたことは書いたように思う。
 本作について語る場合、「ガルパンはいいぞ」という定型句を適宜用いるのが一種の作法のようだが、相反するような要素が、これまで見なかったような融け合い方をしているという点で、確かに「いい」と思う。
 このシリーズは、その後の劇場版までノベライズされていると聞く。今後手に取ることがあれば、また感想を記したい。

ガールズ&パンツァー 3 (MF文庫J)

ガールズ&パンツァー 3 (MF文庫J)

 

 

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