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ひびき遊『ガールズ&パンツァー2』の感想


(2019年2月読了)

 過日に引き続き、ライトノベル作品『ガールズ&パンツァー』の2巻について、概要と感想を記したい。それでは早速、概要から行こう。

概要

 「第63回戦車道全国高校生大会」第2回戦を前に、武部沙織たち大洗女子学園の戦車道履修者は、学園艦内を改めて探索し、Ⅳ号戦車用の長砲身と、忘れ去られていた戦車2台を発見した。

 新しい戦車に乗る生徒の目処は立たないまま、2回戦は始まる。相手校は、イタリアの戦車で編成されるアンツィオ高校である。大洗女子は、長砲身に換装したⅣ号戦車の待ち伏せ戦術で首尾良くこれを降し、3回戦――準決勝への進出を決めたのだった。

 これまで思い思いのカラーリングでやってきた大洗女子の戦車たちだったが、これまでの試合で塗装が剥げかかったのを機に、オリジナルカラーに戻すことが提案される。その代わり、お互いの識別用として各車にシンボルマークを入れることとなった。
 そんな時、かつて練習試合で胸を借りた強豪校・聖グロリアーナ女学院のトーナメント敗退が報じられ、一同はショックを受ける。

 試合である以上、勝者がいて敗者がいる。その事実は、隊長を務める西住みほに苦い記憶を思い起こさせた。昨年、彼女が戦車道の名門・黒森峰の副隊長として、大会準決勝に出場した際の失策。水没しそうになった自チーム戦車の救出を優先したために、勝利を逃したことが、彼女が大洗女子に転校してきた理由だった。
 秋山優花里は当時のみほの判断を評価し、沙織たちも同意する。勝ち負けよりも大切なことがあるという彼女たちの考え方を、しかし生徒会の面々は肯定しない。「負けたら終わり」という生徒会広報・河嶋の言葉が不穏に響いた。

 新たに発見された戦車のうち1台、ルノーB1 bisの乗組員が募集され、その校内放送を観ながら、沙織たち“あんこうチーム”の面々は昼食を摂る。沙織は、無線のことやチームメイトである五十鈴華の食事量のことなどを考えながら、冷泉麻子が自らの家族の事情を明かし、みほを諭すのを見ていた。

 学校からの帰り際、沙織は生徒会三役にひとり誘われ、会長室であんこう鍋をごちそうになることとなる。生徒会長・角谷杏(かどたに・あんず)によるあんこう鍋は美味だったが、そんなことなど吹き飛ぶ事実を知らされ、沙織は驚愕した。大切なことを隊長であるみほに伝達する役目を、沙織は無茶ぶりされてしまったのだ。
 話を切り出せぬまま、準決勝は明日に迫った。新たに戦車道のメンバーとなった風紀委員3人組ともども、雪中での試合に備え、一同は防寒装備を調える。

 雪原で、準決勝は始まろうとしていた。相手校は、旧ソ連の戦車から成るプラウダ高校。隊長のカチューシャと副隊長のノンナが試合前の挨拶に訪れ、その挑発に大洗女子の面々は憤慨する。
 試合が開始されると、いきり立った一同に押される形で、みほは速攻を選択。それが功を奏したか、大洗女子は立て続けにプラウダ高の戦車を撃破していく。
 が、それはカチューシャの仕掛けた罠だった。追い詰められ、大洗女子はやっとのことで廃教会に立て籠もる。

 プラウダ高の“特使”は大洗女子に土下座を勧告してきた。徹底抗戦か降伏か、判断に迷うみほに、多くの者は降参を勧めようとする。しかし、生徒会の河嶋は頑なに負けを拒否した。
 困惑する生徒達を見て、杏は真実を告げる。全国大会で優勝しなければ、大洗女子の日常は潰える、と。
 みほは落胆する一同を励まし、態勢を立て直すべく指示を出す。応急修理と偵察を終え、準備は整ったものの、天候の悪化で試合続行が危ぶまれる。低下する大洗女子の士気を復活させたのは、みほの恥を忍んだパフォーマンスだった。

 天候が回復し、大洗女子にとっての最後の賭けである「ところてん作戦」が始まる。息詰まる接戦を制したのは、彼女たちだった。高飛車だったプラウダ高の隊長カチューシャは、ついに大洗女子を認め、みほに握手を求めた。

 準決勝翌日。気が抜けてしまったものの、沙織は翌日に迫った試験の準備に追われていた。アマチュア無線二級。通信手として、やれることを考えた末の挑戦だった。助けを求められて訪れた麻子と、二人三脚の試験対策が続く。
 試験の次の日。疲れ切った沙織はそれでも、華が母――華道の家元で戦車道を嫌っていた――と和解したという話を聞いて喜んだ。

 以前見つかりレストアされていた戦車・ポルシェティーガーが、整備を担当していた自動車部の操縦によって試合に加わることとなり、さらに再度の戦車捜索で見つかった三式中戦車も、戦車ゲームで鍛えたという沙織の同級生の猫田らゲーマー3人によって戦力化される。
 これで大洗女子の保有戦車は8台。既存の戦車の一部にも義援金をつぎ込んだ改造パーツを取り付け、決勝戦の準備は整った。

 決戦を明日にひかえ、みほの言葉に一同は奮起する。その夜、沙織の部屋で催された“あんこうチーム”のご飯会では、ゲンを担いでトンカツが饗され、沙織の努力が見事に実を結んだアマチュア無線二級の免許が話題に花を添えた。彼女たちだけでなく、大洗女子の8チーム全てが、それぞれのやり方で明日の勝利を祈っていた。

感想

 前巻に引き続き、大洗女子が戦車道の大会トーナメントを勝ち進んでいくのを物語の本線として、沙織を始めとする登場人物の心情が差し挟まれていく。2巻の主要な内容としては、大会第二回戦のアンツィオ高校戦、準決勝のプラウダ高校戦、そして沙織のアマチュア無線二級受験の顛末の3つが挙げられるだろう。
 このうち沙織のアマチュア無線受験については、アニメ版では結果として合格したことだけが示され、その裏でどのような苦心があったかは触れられていなかった筈である。

 また、二回戦であるアンツィオ高校との試合についても、テレビアニメでは詳細には描かれず、後日、直接DVD等を発売するOVAの形態で、改めて対アンツィオが発表されたという経緯がある(どうやら制作が間に合わなかったらしい)。本書はテレビアニメ放映の直後に出版されたため、原作の展開を踏まえつつ、試合の模様は本作オリジナルのものとなっているのだろう。
 今巻の「あとがき」によれば、当初はこの2巻で物語は完結する予定だったところ、途中で全3巻ということになったようである。この背景にも、制作の遅れによってアニメのラスト2話が後日放映になったという事情があるのだろう。

 以上のような事情もあって、アンツィオ高校との試合にはそれほど紙幅が割かれておらず、プラウダ高校との試合が今巻のハイライトという位置付けになる。その後に沙織のアマ無受験の話が置かれているのだが、これは少し妙な構成と感じた。
 しかし、例えばアンツィオ高校戦の後にこのエピソードを移すと、それはそれで中盤が間延びした感じになるので、作者は苦慮したのではないだろうか。急に続刊が決まると、そのために頭を悩ませる部分は増えるだろう。

 今巻の中盤で、大洗女子学園の生徒会が、なぜ戦車道の再興を企て、そして公式戦での勝利をみほ達に強いるのかが明かされる(ついでに言えば、みほにそれを告げる役割を沙織が押し付けられるのは、本ラノベ独自の展開であろう)。
 生徒会のやり方は高圧的だったに違いないが、彼女らの本心を思えば健気な話である。逆に言えば学園の運営者である理事長らは何をしているのだろう、という気もするが。
 ところで、学園生活という日常を守るために、(読者の目から見れば)非日常の象徴である戦車道の力を借りるというのは、なかなかパラドキシカルで味わい深くも感じられるのだが、どうだろうか。

 そうした奇策の提唱者であろう生徒会長の杏は、なかなかのやり手と言うべきだろう。真相を告げぬまま皆を扇動した責任を取る形で、対プラウダ高校の最終局面では最も困難な役割を買って出るという潔さもある。やはり、最後に責任を取らなければ、リーダーはリーダーと言えないと思う。

 戦車道の隊長はみほなのだが、一方で、この戦車道大会への参加は学校の授業の延長なので生徒会も相応の権限を持っていると思われる。
 権力の二重構造と言えば、一般的にはあまり良いことではないだろう。例として、中世ヨーロッパの教会と皇帝の関係などを思い出してしまうが、本作では、それぞれが自分の領分を守っており、苦難に対しては支え合っていると言える。幸せな二重構造かもしれない。

 それを言うならば、戦車道は部活ではなく、あくまで授業の一環という位置付けなのも興味深い。恐らくこの作品の企画段階で、監督らは「戦車道部」という架空の部活を創作する誘惑にかられたのではないかと邪推するが、それを押しとどめて正規の授業という扱いにしたところに値打ちがあると思う。
 授業という扱いで部活とは別枠にしたことで、バレー部や自動車部、風紀委員や生徒会という部活・委員会単位のチームが存在できるようになった。同時に、歴女やゲーマーといった普通なら1つの集団に集まらない属性のチームをも許容できた。結果として、登場人物に幅をもたらしていると思われる。

 登場人物と言えば、相手校の隊長・副隊長についても触れておこう。
 アンツィオ高校の隊長はその名もアンチョビというのだが、彼女はテレビアニメでも、このライトノベル版でもほとんど登場していない(ラノベに限って言えば、名前すら出てこない)。そのため割愛せざるを得ないだろう。
 プラウダ高校についてはどうか。隊長カチューシャは、これまで登場してきた隊長たちと比較すると、かなり人格的に幼い印象であり、実際に身長も低いようだ。隊長なので2年生か3年生だと思うが、これまで登場した学校に比べると異彩を放っているのは間違いない。プラウダ高校旧ソ連がモデルになっているようだが、誰かソ連の軍人にモデルなど居るのだろうか?
 一方、副隊長のノンナは背が高く寡黙な少女である。それ以上の情報は、今巻からは読み取れない。もう少し、紙幅を割いてもよかったように思う。

 書きたいことは大体記せたと思うので、以下では1点だけ、今巻で気になった部分について挙げておきたい。
 みんなで戦車の上でお昼を食べる場面で、沙織が食べているのは「納豆コーヒーゼリーサンド」という実在するのか疑わしいようなサンドイッチである(p.55)。「変わり種のサンドイッチだけど、意外と美味しいのよね」と彼女は語っているが、本当だろうか。
 調べたところ、納豆コーヒーゼリーサンドは実在し、三重県鈴鹿に本店を置く「鞍馬サンド」というお店の名物とのことである。名古屋には独特の料理を出す店が存在するが、その流れを汲むものなのだろうか。
 いずれにせよ、茨城県大洗町を本拠とする大洗女子学園内で、なぜ三重県の名物が手に入るのか、いささか不可解に思える。茨城県と言えば水戸の納豆が有名だが、その繋がりで登場させたものか、あるいは、このとき大洗女子を擁する学園艦が、たまたま鈴鹿市の白子港にでも停泊して物資の補給を受けたのか。疑問が解決することはあるだろうか。

 最後はいささか重箱の隅をつつく形になったが、いよいよ決勝戦も目前となったところで、2巻の感想としては、ここまでとしたい。最終巻である3巻についても、近いうちに書きたいと思う。

 

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