何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

夢野久作『ドグラ・マグラ 上』(角川文庫)の感想

通常のミステリ(という表現も妙な気がするが)の埒外に位置し、ミステリというジャンル自体への批評性を備えたアンチ・ミステリで構成される“日本三大奇書”の1作である。角川文庫版の区分けに沿えば、上巻は概ね、作者による当時の精神科治療についての概説…

ゆく年(2018年)におくる63冊

今年も有象無象に忙殺されて読書は捗々しくなく、“昨年よりは少しまし”程度となりそうだ。それでも、ゆく年に送る本のリストを作ることは無益でないと信じて、今年もまた作りたいと思う。 このリストは、1年間、世の中の動向などから興味が広がり読もうと考…

ヘルマン・ヘッセ『デミアン』の感想

図らずもしばらく「青春」な小説を読んできたが、続けてもう1作加える形となった。 序盤こそ『郷愁』や「少年の日の思い出」を思わせるノスタルジックな成長物語と思われたが、それだけではなかった。謎めいたデミアンに代表される「カインのしるし」を持つ…

会田誠『青春と変態』の感想

『氷菓』シリーズで青春の光と影を垣間見てきたが、それらがとても綺麗だった反動で、よりドラスティックな青春というものを読みたくなり、この小説に思い当たった。 …書き連ねたが、一言にまとめれば、冒頭の「よりドラスティックな青春を描いた小説を読み…

亀井秀雄 監修/蓼沼正美 著『超入門!現代文学理論講座』の感想

内容としては、4つの現代文学理論を解説し、ひいては「主人公の気持ちにピタッと寄り添」うことが規範とされている(本書p.8)らしい、学校における国語教育に一石を投じたもの、と要約できそうである。ここでいう「現代文学理論」とは、20世紀になって登場…

水谷彰良『サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長』の感想

件のゲームだけでなく、映画『アマデウス』も観ていないので、それらでの印象は分からないのだが、本書を読んで浮かび上がってきたサリエーリのイメージは、基本的には穏やかで、真面目に職務に励む男、というものだった。

米澤穂信『いまさら翼といわれても』の感想

〈古典部〉シリーズの最新作に当たる短編集である。まだ文庫版も出ていないので、単行本(上製本)で読んだ。例により、まずは各編のあらすじを記すことから始めよう。

アガサ・クリスティー『オリエント急行殺人事件』(光文社古典新訳文庫版)の感想

当時、書店でハヤカワ文庫版『オリエント急行殺人事件』が平積みされているのを目撃し、映画の公開間近を知った。そこから4月に出た古典新訳文庫を積読にしていたのを思い出し、ページを繰った次第である。

米澤穂信『ふたりの距離の概算』の感想

前作は短編集だったが、今作は再び長編で、主観的には〈古典部シリーズ〉第2部といった趣がある。 いささかメランコリックな幕切れではあるが、あまり揚々としていても本シリーズらしくない。憂愁を内包して、彼らはどんな青春を送るのかを見続けたいと思う。

米澤穂信『遠まわりする雛』の感想

これまでの長編が、どちらかというと事件にピントを合わせていたのに対し、これらの短編は人物に合わせているという感じを受けた。「あとがき」によれば本書の主役は「時間」ということになるが、それは即ち、時間によって変容していく人物を描くということ…

米澤穂信『クドリャフカの順番』の感想

英文タイトルが語りかける通り、読者として神山高校文化祭を楽しめた、というのが一番シンプルな感想である。 ただ、奉太郎が語り手だったこれまでの2作とは異なり、古典部の4人が入れ替わり立ち替わり語り手となって物語が進行していくため、色々な味わい方…

米澤穂信『愚者のエンドロール』の感想

『古典部』シリーズ2作目である。前作『氷菓』(当該記事)の読了後、そのまま読み継ぐ。作中の時間軸的にも、発表順としても続篇と言ってよい作品である。 …ビデオ映画という劇中劇での殺人についての推理という構成は巧い。これならば、高校生の日常と非日…

米澤穂信『氷菓』の感想

既に書いてきた通り、ミステリは幾つか読んできたのだが、その殆どが殺人事件を扱うものだった。いつのまにかそれが当然のように思えており、いわゆる“日常の謎”を扱う類の作品は敬遠していたのが偽らざるところである。本作もそこに属すため、手が伸び難か…

対馬美千子『ハンナ・アーレント 世界との和解のこころみ』の感想

2016年、何かの展示企画で本書を見かけ、副題にある「世界との和解」という言葉に興味を惹かれ、読み始めた。 著者である対馬美千子氏とはお会いしたことがある。しかし、お互い主役でもない集まりで、少し言葉を交わしただけなので面識があるとは云い難い。…

ゆく年(2017年)におくる35冊

ゆく年に送る本のリストを、2016年に続いて一応つくっておくことにする。 このリストは、この1年間、世の中の動向などから興味が広がり読もうと考えた本や、人に薦められた本、実際に読んで心に残った本などから成る。例によって人に薦めるというよりも、個…

門田隆将『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』の感想

年頭に読んだ、福島第一原発の事故を追ったノンフィクション『死の淵を見た男』(当該記事)の著者である門田氏の、同じくノンフィクションである。『死の淵を見た男』の感想を書く際、積読になっていた本書も少し目を通したのだが、そのまま通読することに…

野村美月『下読み男子と投稿女子』の感想

文芸作品の新人賞の予選のようなものとして、著名な審査員ではなく編集者や出版関係者が応募原稿を読む「下読み」という段階が存在する。私は未経験だが、知人のライター氏などはたまにやっているようである。 本作の作者である野村美月氏もまた、その下読み…

門田隆将『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』の感想

本書は、今年の年始に実家に挨拶するため帰省した折、父が読んでいたのを借りて少し読み、読み通したくなったので自分で入手した。福島第一原子力発電所の大事故をめぐるノンフィクションである。 同所所長だった吉田昌郎氏の名前が副題として付されているが…

歌野晶午『長い家の殺人』の感想

現代日本のミステリである。布団の中で二晩読んで読了した。 「現代」といっても発表は1988年なので、読んだ当時としても一昔前の作品である。現在(2016年)からすると四半世紀以上前の作品であることに驚くが、それはともかく、まずは概要を示す。

過ぎた年(2016年)におくる50冊

いつもは読んだ本の感想を書いているのだが、広い意味で「その年」を概観する本のリストを作りたいと思い立った。 仕方がないので、手が空いた年度末のこのタイミングに作成する。2016年の1年間、世の中の動向などから興味が広がり読もうと考えた本や、人に…

梶本修身『すべての疲労は脳が原因』の感想

現在、年末の進行による深い疲労状態で、これを書いている。疲労しているのは今に始まったことではなく慢性的なものでもあるので、どうにかできるかと思い手に取った1冊である。 本書の内容は、テレビ等でもよく扱われるようだが、私は最近ほとんど地上波の…

おーなり由子『てのひら童話1』の感想

おーなり由子は、少女漫画雑誌『りぼん』に連載をしていた漫画家である。さくらももこ『ちびまる子ちゃん』の、割と初期の頃の巻に寄稿していたと思うので、連載時期としてはそれくらいの頃だったのだろうと思う。本書は、そんな作者によるオムニバス形式の…

村上春樹 文/稲越功一 写真『使いみちのない風景』の感想

写真つきの随筆である。というよりは、稲越氏の写真集に少しずつ挿入されている随筆、と表現すべきだろうか。1ページ当たり長くても8行程度の文章が、概ね2ページにつき1ページの割合で挟まれている。そうした形式による100ページほどの表題作と、私が読んだ…

矢口史靖『ウォーターボーイズ』の感想

その頃、映画『スウィングガールズ』を観たので、矢口監督作品の小説版を読む気になった。 ネットの評価でも散見したが、確かに「(『スウィングガールズ』と)だいたい同じ」な感じは受けた。停滞した高校生たちと、何かちょっと珍しい活動と、いい加減な指…

万城目学『鹿男あをによし』の感想

既に『鴨川ホルモー』、『プリンセス・トヨトミ』は読んだのだが(いずれ過去の読書として感想を書く)、作者の第2作に当たる本書は手つかずだったので読む。作中では神無月すなわち10月が重要な時期として扱われているのだが、その時期に読んで感想を書ける…

萱野葵『段ボールハウスガール』の感想

200万円を盗まれた女の無軌道な路上生活を描いた表題作と、仕事を辞めた主人公とアル中だった弟の暮らしを描いた「ダイナマイト・ビンボー」を収めている。

霧舎巧『ドッペルゲンガー宮《あかずの扉》研究会流氷館へ』の感想

もっと新本格ミステリを読もうと思い、手に取る。作者は本作によって1999年にデビューした「20世紀最後の新本格派新人」とのことである。当時、日曜に読み出し、その日のうちに残り100ページまで読み進め、翌月曜の深夜に読了した。とある大学の《あかずの扉…

メーテルリンク原作/中村麻美 翻案・画『チルチルの青春』の感想

私は『うしおととら』『からくりサーカス』などを描いた藤田和日郎の漫画を、相当に愛好している。現在は『双亡亭壊すべし』を連載している藤田氏だが、その1つ前の連載、2008年から2014年にかけて描かれた『月光条例』は、全ての“物語”を巻き込んだ物語だっ…

森鴎外『阿部一族・舞姫』の感想

鴎外の処女作、擬古文の「舞姫」を巻頭に収録した短編集である。他に同じく擬古文体の「うたかたの記」、以下は言文一致体の「鶏」「かのように」「阿部一族」「堺事件」「余興」「じいさんばあさん」「寒山拾得」とその付記「附寒山拾得縁起」を収める。 ま…

新海誠『小説 君の名は。』の感想

映画の公開に先立ち、読んでみることにした。新海誠の映画は恐らく全て観ているが、特にファンというわけでもない、と自分では思っている(けれど公開初日に見に行こうとしているのは、やはりファンを自称すべきだろうか)。 ともあれ、以前から『秒速5セン…