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何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

コナン・ドイル『緋色の研究』の感想


(2004年2月読了)

 先日の『占星術殺人事件』(当該記事)の御手洗と石岡(語り手)の関係は、ホームズとワトソンのそれを参考にしたらしい。自分のホームズ体験はなんといっても宮崎駿が関わったところの例のアレで、原作そのものを読んだことはない(子ども向けにアレンジされたものならあるかもしれないが)。小学校中学年の頃、多くの男子にやってくるであろう推理小説ブームについて、私は専らルパン派だったという事情もあるにはある。

 そんな事情も踏まえつつ、初のホームズ原作は、順当にその第1作にした。世に存在するシャーロック・ホームズに関するワトスン博士の回顧録全60篇は、ここから始まったことになる。シャーロッキアンへの道程もここから始めるのが妥当だろう。まずはあらすじを。

 アフガニスタンの戦場から重症を負って本国に戻ってきた医学博士ジョン・H・ワトスンは、自分の助手をしていたスタンフォードから、シャーロック・ホームズという特異な人物を紹介され、ベーカー街221Bで共同生活をすることに。極めて特異な興味と傲慢な性格、鋭い観察眼と推理力を有するホームズに、ワトスンは反感まじりに驚嘆する。彼こそは、世界に1人の顧問探偵なのだ。
 ある日、スコットランド・ヤードのグレグスン刑事から協力を仰ぎたいとの手紙が届き、ホームズはワトスンと共に現場に向かう。現場は空き家で、イーノック・ドレッバーという名刺を持った中年の男が殺されていた。飛び散った血の跡があるものの、死体に傷や格闘の形跡はない。外には幾つかの足跡と馬車の轍。そして壁には、「RACHE」という血文字が書かれ、女性用と思しき結婚指輪が落ちていた。
 困惑するグレグスンと、彼と反目しあっている刑事レストレードをよそに捜査を開始したホームズは、殺害方法、犯人の特徴などを独自の方法で次々と推理していく。さらに新聞の遺失物取得欄に「指輪を拾った」という広告を出すが、やってきたのはホームズが思い描いた赤ら顔の大男ではなく老婆で、彼女を尾行するも巻かれてしまう。
 グレグスンは、犯人を逮捕したとしてドレッバーと秘書スタンガスンの下宿先の息子で海軍中尉のアーサーの名を挙げ、妹のアリスにドレッバーらがちょっかいを出そうとしてアーサーに叩き出された経緯を語って得意がるが、そこへレストレイドがスタンガスン刺殺の報をもたらす。
 犯人捜しは振り出しに戻ったかと思われたが、スタンガスンが殺されたと思しきプライベート・ホテルの一室で見つかった物品に、ホームズは真相に至る最後のピースを見出す。
 それは、遠く離れたアメリカ内陸部での悲劇に端を発する復讐劇。モルモン教徒の町に暮らしていた、とある娘をめぐる、逃避行と報復、そして執念によって出来上がった事件だったのだ。
 ワトスンは真相を見抜いたホームズに感心する。そして、新聞が刑事たちの手柄と報道したのに対し、自分の日記にこの殺人をめぐる研究――“緋色の研究”――の一部始終を書き留めており、いずれは大衆もそれを知ることになる、とホームズを元気づけるのだった。

 非常にオーソドックスなつくりという印象を受けた。この小説が書かれたのは1886年で、実に130年ほど前の作品ということになるが、トリッキーというよりもオーソドックスという印象は、その月日の経過によるところが大きいだろう。ただ、古いながらもその古さが魅力になっていると思う。例えばアガサ・クリスティの作品が文系だとすれば、こちらは理系の面白さという点で違いがあるが、これは作者コナン・ドイルが医師だったことにもよるのだろう。
 ところで、アメリカとかモルモン教が事件の背景になっているのは、当時のイギリスとしてはどうだったのだろう。モルモン教がどのように受け取られていたのか、それをまとめた新書でもあれば読んでみるのもよさそうである。
 全く余談だが、モルモン教といえば一人暮らしをしていた大学生の頃、たまに彼らの訪問を受けることがあった。特に何の進展もなく、ただペーパーを貰ってお引き取り願っていただけなのだが、ある時『モルモン書』なる分厚い書物を貰ってしまった。いつしかモルモンの人々も来なくなり、その本も読まずにどこかにやってしまった。
 新潮文庫版の解説は内容の深いところまで突っ込んでおり、賛否が分かれそうだ。が、本編読了後に読むのであれば、これはなかなか親切だと思う。
 そういえば、再び『占星術殺人事件』を拾い読みしてみたが、島田荘司はやはりホームズが好きなのだろうと思う。ホームズとワトソンの掛け合いは、そのまま御手洗と石岡の掛け合いを思わせる。

緋色の研究 (新潮文庫)

緋色の研究 (新潮文庫)

 

 

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