2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧
潔癖症の零落譚二編といったところだろうか。どちらの作品も、“人工的で清潔できっちりとしたもの”に惹かれる主人公が、何らかのきっかけによって自ら秩序を崩していく様子が描かれている。ただ、両者の色彩は微妙に異なっていると思う。
恐らく多くの読者が指摘するところだと思うが、確かに映像的な作品である。それも終盤のスペクタクルな感じを活かすためには東宝あたりで映画化されるとよさそう…などと書いていたら、同じ作者の『終戦のローレライ』を原作とした映画『ローレライ』は東宝で…
世界の不条理の具現体と戦うことで、自らに意味を見出す2人の物語、という感じだろうか。文体や設定はかなりライトノベル寄りで、適度に頭の悪い陽介視点による描かれ方はなかなか面白い。親和性が高いのだろう、映画化、漫画化もされている。
純文学的なものからコミカルなものまで多彩な顔ぶれだが、なんといっても「憂国」のインパクトが凄かった。初読時、朝の電車の中で読んでいたのだが、自害のシーンに思わず吐き気を催して途中駅で降りて休むことになってしまった。これを書くために再読した…
トリックは割と単純で、ある程度ミステリを読みなれた読者がよく考えながら読めば、何となく犯人像の想定はできるかと思う。『十角館の殺人』(当該記事)の衝撃が大きかったので、それを思うと小粒という感想は否めなかった。これ自体をオリジナルであるコ…
17歳から18歳にかけての女子高生が何を考えて生きているのか、がまずまず描かれているように感じた。“性以前”から少しだけ女性となった自分へ、という変転を描くのに、18歳を間近に控えた裕生を主人公としたところが心憎い。文庫版の表紙が恐らく彼女の肖像…
何といっても、終盤のとある1行の価値が途轍もないと感じた。娯楽作品の場合、大体において漫画や映像作品に後れを取るというのが文字メディアへの私的な感覚だったのだが、そこに一石を投じるものであることは間違いない。21世紀も10年以上経った現在では、…
(2004年7月読了) 私の読書の羅針盤の1つとして、ときどき参照する福田和也『作家の値うち』での評が気になり読み始めた。以下、まずはあらすじ。 あらすじ 大学生の「ぼく」(菊人)は、ロシア語を専攻している。恋人の砂糖子はイタリア語学科で、その暗さ…
私はもちろん教科書としてこの本を読んだ世代ではないのだが、たまに挿入されている図版なんかは社会科の資料集で見覚えのあるようなものもあった。例えば兵器が入れられた壺のようなものに「戰争放棄」と大書してあって、そこからビルや列車、船舶や自動車…
お姉さまと下級生の関わりが主題となった物語だが、同性愛的な色彩はそれほど濃くない。2人の交流は、ピアノを連弾したりダンスの練習をしたりと、まことに優雅な感じで進んでいく。色々なタイプのお嬢様の誰も過度に耽美に描かれることはなく、声を荒げたり…
一読して面食らったのは、『遠野物語』と『古事記」という民俗学的な文献を例に取っているという点だった。「序」では全世界的な視野で考えられるものとして共同幻想論を提示しているが、本編は日本国内に限られている感じがして、少し窮屈にも思えた。とは…
言で表せば、ひねくれものの独白といったところだろうか。前半は小説というよりも評論で、後半が物語という形式である。島田雅彦の『僕は模造人間』を思い出すような(むしろ順序としては本作が先であるが)、恣意と意に逆行して暴走してしまう人物の手記で…
職場の上司ご推薦の1冊。編集者として仕事をするにあたり読んだ。 初版が1979年ということで、手にした時に既に四半世紀を経てた本である。ご多分に漏れず既に絶版なので、Amazonでも書影はなく、読むなら図書館か古書であろう。
夏目漱石の日記を抜粋して編集した本である。これまで漱石の小説や随筆を読んできたが、全集の目次などを見ると日記や小さな断片まで一般人が読めるようになっている。まさかそこまで読むのも、と思っていたのだが、こうして文庫本にもなっているので、読む…
身も蓋もないことを書いてしまうが、「避妊くらいしろ」というのが読了後ほどなく到来した最初の感想だった。無粋きわまりないかもしれないが、現代の日本を舞台にしていて、しかも春妃が医師である以上、この点は物語への没入を阻害しているように思えてな…
デビュー作「お助け」を所収した短編集。短編集というよりはショート・ショート集といってよさそうな本で、全40篇超を収めている。後の自分のためにざっとタイトルのみ挙げておこう。
ある程度の年齢以下の方には、ウンディーネというとサブカル(ライトノベル)領域のファンタジー小説や、コンピューターRPG(近年では『パズドラ』に出ていたと思う)でお馴染みかもしれない(かく言う私がそうである)。この小説中でも一部触れられているが…
(2004年4月読了) ドイツロマン派に彩られた氏の出世作。処女作はこれ以前にあるらしい。2004年当時は作家の処女作にこだわっていたので、こういう場合には困った。「処女作に全てが宿る」と言われるし、様々な作家の処女作を集めた文庫とか全集などはない…
作者の長い名前は、自身が兵庫の寿司屋の三代目として生まれたことによるという。“自分を讃える作品”をキーワードに制作しているということで、“オレ様”感あふれる詩が多い。頻出する語を挙げると、「君のスカートの中」「チャーミング」「チューイングガム…
どうしても文三に感情移入して読んだ。如才ない昇や、何だかんだいって稼ぎが大事とするお政などの人物にも共感しないではないが、やはり作者が主人公として配置した文三への共感ほどではなかった。
仕事の資料として読んだ専門書である。2001年度から公立の学校にスクールカウンセラーが本格配置されたが、それに関わる本を作る可能性があったので勉強しなければならなくなったというわけである。この本はスクールカウンセラーを含む、教育に携わる人々を…
あらゆる現象は、脳の働きが表出したものであるとする“唯脳論”の導入を経て、前半は脳と神経と末梢、それに付随する文化的・社会的事物についての講義。後半は唯脳論的立場から言語、運動、時間、社会、歴史などを読み解く。
劇団四季のミュージカルとしても有名なファンタジー絵本。高校の頃の文化祭で、後輩の女の子がこの演目で主役を演じ、歌もダンスも相当クオリティが高かったのだが、その経緯があって原作を読んでみようと手に取った次第である。YouTubeに楽曲集があったので…