ゆく年(2017年)におくる35冊
いくらも感想文を書けなかった今年だが、ゆく年に送る本のリストを、2016年に続いて一応つくっておくことにする。
このリストは、この1年間、世の中の動向などから興味が広がり読もうと考えた本や、人に薦められた本、実際に読んで心に残った本などから成る。例によって人に薦めるというよりも、個人的に今年を回想するものなので、他人が読んで面白いかは分からない。幾つかの項目ごとに挙げてみよう。
ある節目
今年もまた、幾つかの事項が節目の年を迎えた。それらから自分が気になるものを抜き出してみる。
坂本龍馬が没して、2017年で150年となった。彼を描いた物語は数限りないが、1883年に高知の「土陽新聞」で連載が開始された本作はその最古のものではないだろうか。
同紙は自由民権運動の新聞だったようで、その政治的スタンスが作中に表れているようだが、その点も含めて気になる。
ファイナルファンタジー2―夢魔の迷宮 (角川文庫―スニーカー文庫)
- 作者: 寺田憲史,天野喜孝
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1989/04
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かつて、和製コンピューターロールプレイングゲームといえば「DQ(ドラクエ)」と「FF(エフエフ)」の双璧だったという説に、異論を唱える人は少ないだろう。
その一方である、「FF」こと「ファイナルファンタジー」シリーズは、1987年12月にファミコン用ソフトとして第1作が発売され、今年で30周年を迎えた。たびたび小説化もされており、数年前にシリーズ1作目から3作目までを小説化した本(小説 ファイナルファンタジーI・II・III Memory of Heroes)も出たが、やはり初期の雰囲気を味わうには、その当時に刊行されたものが良いと思う。上掲の1冊はシリーズ2作目のイメージを崩さず小説化したという評価が高い。
岩波文庫は、1927年(昭和2年)7月に刊行が開始された。最初のラインナップは22冊だったという。今年で刊行開始90年ということになるが、『岩波文庫の90年』という本はない。10年前には上記の本が出ている。
現在の日本国憲法が施行されたのは、1947年5月3日のことだった。それから70年が経ち、憲法を改めるか否かという議論は続いている。
何れの立場に立つにせよ、現状を確認する必要はある。上掲の本は既に感想も記したものである(当該記事)。現在の議論の足掛かりとして事足りるものではないが、教育において憲法はどのように説明されてきたか、を確認することも有用と思う。
次に、映画化や文学賞の受賞などで、目立つこととなった物語からピックアップする。
まずは今年の太宰治賞を受賞した本からいきたい。地下室に引きこもった妻と、彼女にどうにかして会おうとする「僕」という、神話のイザナギ・イザナミのような導入の物語である。
そんな古風な前提と、題名の「タンゴ」がどのように混じり合うか。楽しめそうな1冊である。
ずいぶん前に、佐藤氏にお目にかかろうかという機会がありながら、けっきょく流れるということがあった。以来、本を手に取ることはなかったが、氏の動向は何となく気にするようになっていた。今年、直木賞を受賞されたと知り、無関係にも等しい身ながらお祝いする気持ちになった。同時に、年齢的な理由から授賞式を欠席されたという話も聞いて、時間が確かに経過していることを知った。
受賞作は、男たちと1人の少女の数奇な愛の物語だと聞く。いささか邪道な読み方だと思うが、氏のこれまでに思いを馳せつつ読みたい。
米澤穂信氏の日常ミステリ『〈古典部〉シリーズ』は、2012年にアニメ化され知名度を増した。今年、その第1作である『氷菓』が実写映画化されたので、それを機に私も読んでみた。かなり引き込まれ、一息に最新作まで読了した(感想を公開するのは年明け以降になりそうだが)。
現在、シリーズは第6作までが発表されているが、その3作目までと4作目以降とは若干カラーが違うように思う。1~3作は文化祭まで同じテーマで描かれた3部作のように感じられるのである。
上掲『クドリャフカの順番』は、その文化祭3部作のラストに位置する作品。描かれているテーマも、見ようによってはかなり重く、それが私好みである。後日、感想を書いた(当該記事)。
夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/02/04
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今年のノーベル文学賞は、カズオ・イシグロ氏に決まった。氏の小説は、長崎を旅行した折に『遠い山なみの光』を持って行って読んだきりだが、他の作品も手に取りたくなった。
全く直観で、好みに合いそうなのは『夜想曲集』だろうか。音楽をテーマにした短編集である。上の『タンゴ……』もそうなのだが、私自身は楽器などできないからか、音楽とくれば即座に有難がる傾向がある気がする。
『探偵はバーにいる』シリーズは、いつかは一気に読み進めたいシリーズである。しかし、その機会を得ぬうちに、大泉洋氏の主演による映画は3作目が公開されることとなった。今度はどの原作を映画化したのか、と調べてみて、今度のストーリーはオリジナルだと知って驚いた。
原作の「俺」と大泉氏の演じる「俺」の間には、だいぶ隔たりがある。オリジナルである今度の映画のノベライズ版を読むと、私の脳裏にはどんな「俺」が立ち現れてくるのだろうか。その1点を確かめるためだけでも、読まなければならないと思う。
今年は昨年に比べ、今一つ映画に元気を感じなかったが、12月に入り、上の『探偵はBARにいる3』など食指を動かされるものが俄かに公開され始めた。アガサ・クリスティーの『オリエント急行』の2度目の映画化作品も、その1つである。
原作は既に読み、予習は完了しているのだが、 いかんせん時間がとれず映画の方は観に行っていない(原作の感想文を公開するのも、来年になりそうである)。年が明けてまだ上映館が近くにあれば、何とか観られるだろうか。
毎年のことのようにも思われるが、今年も激動と言っていい1年だったと思う。国内外のニュースから、関連して読みたい本を挙げる。
ミサイルの件でも注目される北朝鮮だが、2月に殺害された金正男氏のことの方が私には衝撃的だった。なぜなら、決定的な状況の悪化だと思われるからである。
上掲の本は、著者による正男氏へのインタビューやメールでの問答をまとめたもの。氏の殺害の引き金となったという説もあり、著者のスタンスをめぐって賛否あるものではあるが、記された正男氏の言説については読まれるべきではないかと思う。
仕事で宅急便には随分とお世話になっているが、そのヤマト運輸のサービス残業の賃金不払い事例は、10年ほど前から存在していたとされる。それに加え、ネット通販の増加による繁忙化と、送料無料による薄利により、今年10月、ついに宅急便の料金は値上げされた。自分の感覚だが、遠方に送る場合の集荷期限も、早まったように思える。
挙げた本は、ヤマト運輸を始めとした宅配業界が、薄利多奉仕をどう実現しているかを潜入ルポの形で書き表している。当然、そこには苛酷な労働がある。
終わりなき侵略者との闘い~増え続ける外来生物~ (小学館クリエイティブ単行本)
- 作者: 五箇公一,THE PAGE編集部
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/07/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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強い毒を持つ外来生物・ヒアリが、港湾を中心に日本のそこここで発見されたのは今夏のことだった。
ヒアリに始まった話ではなく、もともと日本にいなかった生物が生態系を脅かしている、という話は昔から聞く。だいぶ昔に類書を読んだ記憶もあるが、それが今現在はどうなっているのか(あるいは、どうにもなっていないのか)、確認する意味で、本書は気になっている。
東芝が粉飾決算を行っていたことが、最初に発覚したのは2015年のことだったろう。それで膿が出て回復していくかと思いきや、これを引き金に同社は経営危機に陥り、今も安堵できない状態なことは周知の通りである。
東芝に限らず、日産、神戸製鋼所、スバルと、特に製造業では根深い不正や偽装が明らかになった年だった。挙げた本は東芝についての本であるが、これと昨年挙げた『失敗の本質』を比較してみてはどうかと思う。
追悼
今年も多くの人が亡くなった。 本に関わりのある方も多い。それらのうちから気になるものを挙げてみたい。
1月に藤村俊二氏が亡くなった。氏の大ファンだったというわけでもないが、テレビや映画でしばしば目にしていたので、もう新作で見ることがないと思うと寂しさがある。
挙げた本は、氏の随筆的な1冊。年明けにはご子息による追悼本も出るそうだが、まずは本人の文章に触れたい。
遠藤周作らとともに「第三の新人」の一角であった作家・三浦朱門氏も2月に亡くなった。色々と逸話は聞くものの、作品そのものを味わったことはまだない。
手元には、最初期の本である『冥府山水図』がある。これを読むところから始めようかと思う。
ドラマ化もされた漫画『孤独のグルメ』の作画を担当した谷口ジロー氏が鬼籍に入ったのも2月のことだった。
原作者を立てた作品が多い中、『歩くひと』は氏が単独で作った漫画である。遅きに失した感はある(もう氏の新作は読めないのだから)が、氏の固有の世界を感じられるだろう。
- 作者: ディックブルーナ,Dick Bruna,石井桃子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1964/06/01
- メディア: 単行本
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日本では「うさこちゃん」や「ミッフィー」として知られる、あの口が「×」のうさぎを生み出したディック・ブルーナ氏も2月に亡くなった。単純な線と色には、氏の信念が秘められていると思う。
- 作者: ロバート・ジェームズウォラー,Robert James Waller,村松潔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1997/09/01
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『マディソン郡の橋』が流行した頃、まだ私は不倫の愛を理解し得ない存在だった(今にしても、どうだか分からないのだが)。その作者、ロバート・ジェームズ・ウォラー氏は3月に亡くなった。いま読んだなら、私はこの物語にどのような感想を抱くだろうか。
仮想戦記には疎いが、それでも佐藤大輔氏の名前は知っていた。綿密な作品設定とハードかつ諧謔心に溢れた台詞に、そのうち一度触れてみたいと思っているうち、3月に氏の訃報に触れた。
氏の作品で完結したものは少ない。『征途』は殆ど唯一の完結作として、愛蔵版が出ている。
4月には、大岡信氏が亡くなった。詩人としても活躍された氏ではあるが、浅学な私はその成果をよく知らない。むしろ『折々のうた』で、広範な「うた」を解説した縦横無尽ぶりが記憶に残っている。
やはり4月、渡辺昇一氏も死去された。その当時、Twitterでも呟いたと思うが、氏の特に晩年の主張に私は頷けない。が、氏の翻訳書の恩恵にあずかったことも多いので複雑なところである。
いずれにせよ、もはや氏はこの世にいない。最初に触れた氏の著書は、父の本棚にあった『知的生活の方法』だった。40代だった頃の自身の言葉を、近年の氏はどう捉えただろうか。
細田守監督のアニメーション『おおかみこどもの雨と雪』を漫画化した人物として、優氏の名前は知るともなく知っていた。その優氏が7月に亡くなったということを、氏のご夫君のツイートで知ったのは9月のことだった。まだ若い方だったろうに、残念である。今夏から秋にかけては、氏の他にも、20代の漫画家の死去が続いたように記憶している。
オリジナル作品である『五時間目の戦争』は、苛酷な物語でありながらも、その結末に『おおかみこども』の主人公・花にも繋がる女性の強さが垣間見られるように思う。氏の新作を読むことは叶わない。それだけに大切に読み直したい漫画である。
9月に亡くなった赤染晶子氏も、同じく早世だった。氏は『乙女の密告』で2010年芥川賞を受けている。
『アンネの日記』を交えた女子大学生たちの話という情報に興味をそそられたが、積読のまま訃報に接することとなった。
塩見孝也氏については、私は深いことを知らない。ただ、元赤軍派議長であり、よど号ハイジャック事件を計画し、懲役18年を受け、出所後は東京都清瀬市の駐車場管理員として働き、11月に亡くなった、という表面的な情報を知るのみである。
若い頃の氏の考えには共鳴できようはずもないが、最晩年に何を思っていたのか、その点はいささか気になりもする。
最後は、世間の動きとはあまり関係なく、今年の私が新たに興味を抱いた本たちである。多くは斜め読みで、読了できていない。また開く時のために記録に残しておく。
表紙の華やかさに惹かれて手に取った。戦国の世を舞台に、紀州雑賀衆の姉妹4人を描いた物語である。
鉄砲を使う4姉妹という設定が、いかにも活劇的で好ましい。時間ができたら一息に読みたいところである。
食生活にあきたらなさを感じていたところ、知人に薦められた1冊である。薬膳というと特殊な材料を用いそうだが、普通の野菜でも立派に薬膳になるという。いちおう類書と見比べてから参考にしたいと思う。
これは仕事の資料として読んだ。著者は同様の本を幾つか出しているが、この本は写真を多用してヴィジュアルとしても楽しめるように仕上げたもの。
文明は光を生み出してきたが、その一方では闇を削ってきた。90年代の代表的なアニメ作品の1つ『新世紀エヴァンゲリオン』でも似たような台詞があったと記憶しているが、そうした失われつつある闇についての1冊である。明るさや華々しさが追及されて久しいが、そろそろ再び暗さや不明瞭さに親しむ時が来るのかもしれない。
奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島
- 作者: ユーディット・シャランスキー,鈴木仁子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/02/26
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孤島の地図を見ると不安になる。しかし、日本列島もまた大きな島なのだから、そこで暮らす私は根本的に不安を内包していることになる。
書店で見つけたこの本は、日本よりも全然ちいさな、それこそ生涯行くこともないだろう世界中の島の図版と、その島に因んだり因まないような気もする文章から成る。“世界の果て”についての説明と同義とも思われる。
仕事で調べることがあり、この本でなければ裏付けが取れなかったのだが、入手難度が高く、時間的制約もあって、参照することが叶わなかった。結局その事項については書き方を変えてお茶を濁すこととなったのだが、何かの折に手にすることができれば是非確認したい。
ふと立ち寄った喫茶店に置いてあった1冊である。著者が挙げるのは高価な道具ばかりだが、確かに美しい。道具というものを、立ち止まってもう一度考えることができる本だろうと思う。
とある古本屋で見つけた1冊。別に珍しいものではない。
しかし、小川未明の作風にあわせた、幻想的な絵が素晴らしい絵本である。小川未明にはそれほど興味がなかったのだが、この本を皮切りに関心が高まっている。
こちらは図書館で見かけた。タイトルの通り、文章に括弧が使われている時、そこにどんな意味があるのかを考えた本である。
括弧に限らず、ダーシ(―)や、ハイフン(-)やコロン(:)などの意味も、今日的には色々とあるような気がする。本書は、そうした“役物(やくもの)分析学”とでも言うべき領域の入り口のように思えて興味深い。
先日、本屋で文庫版が平積みされているのを見て俄かに興味が湧いた。宮部みゆき氏の作品は飛び飛びに読んでいるが最近はご無沙汰だったので、そろそろ手を伸ばそうと無意識に考えたのかもしれない。
数年前に刊行された『英雄の書』と世界観を共有しているとのこと。どうせなら、そちらから合わせて取り組みたい。
前述の『〈古典部〉シリーズ』によって、米澤氏の他の著作が気になるようになった。〈古典部〉に似た構図に思える『さよなら妖精』なども、もちろん良さそうだが、氏厳選の世界短編傑作集という本書にも惹かれるものがある。
『〈古典部〉シリーズ』に香る海外ミステリのエッセンスから、氏の選んだ世界の短編が名品であることは疑いないだろう。海外作品をそれほど知らない私にとって、絶好のガイドになりそうである。
ひとまずのところは以上である。あるいは後ほど、こっそりともう少し付け加えるかもしれない。
今年は時間が限られ、読了した本は多くなかったものの、一方で新たに触れた本は去年よりも多かった。それらがまた積読になるわけではあるが、「世界が広がった」と前向きに捉えたい。もちろん2018年の読書生活の安定を祈りつつ、である。
それでは、良いお年を。